samyurai

そして、バトンは渡されたのsamyuraiのネタバレレビュー・内容・結末

そして、バトンは渡された(2021年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

好意的な評価が多いようですが、思ったことを忌憚無く記します。

[残念な点]

1.血の繋がりの無い母娘の愛情が不可解

作品の全体像を通じて最も大切なコンセプトだと思うのですが、回収ものと感動の押し売りを仕込みたくてなのか、辻褄が合わない描写が散見されていました。そもそも、母親が娘を深く愛するに至った感情の起伏が省かれていて、雲隠れしながら娘の成長を案じているなどという構図に無理があるかと。のちに病気だったからと理由付けがあるけれど、だったら尚更、ブラジルに行く夫へ親権を渡すとか、説得して家族3人が日本で暮らす道を選ぶほうが現実的。本当に娘を愛している母親がする行動なのかと首を傾げざるを得ない話が軸になり過ぎていて違和感しかありません。

2.登場する男の存在価値が謎

病気の進行や余命を心配した母親が男を渡り歩き、しかも、その男が金持ちやエリートという安直な解決策…。娘を思っての行動だという点で百歩譲って理解したとしても、なぜ、その男の前からも姿をくらますのか?特に、ニ番目の夫となった金持ちの老紳士については、そのまま娘を預けておいても良かったのに、老紳士の寿命を不安に感じて家を出ることに納得がいかない。少なくとも、正式な家族として籍を入れていたのであれば遺産も入ってくるわけで、娘の将来を考えたら、わざわざ若いエリートビジネスマンに鞍替えする必要が無いと思います。老紳士からすれば、そんな仕打ちをするくらいなら最初から声を掛けないで欲しいでしょう。

3.古いシンデレラストーリー

作品を通じて、結局のところシンデレラストーリーに落とし込みたい魂胆は分かるのですが、やけに古くさい設定としか言いようがない。娘の幸せのバトンを、最後に高校のイケメン同級生に渡して終わるという陳腐さに唖然としました。〝え?〟、ここまでのらりくらりと進めて、バレバレの回収を終えたのちに迎えたのが、やっぱり王子様とのゴールイン…。せっかく、数奇な運命を辿った主人公(娘)の半生が無駄になるほどの軽薄な落着…。親に振り回された人生だったからこその逞しいリスタートを期待していた側からすると、なんとも煮え切らないフツーの着地点すぎて全く感情移入できませんでした。

[良い点]

1.小道具や衣装が良かった
2.色彩感覚が良かった
3.ありえないほど男が良い人ばかり

[改善点]

1.母親が娘を愛するまでのサイドストーリーを厚くする

子どもができない体質だと知る前にも、不妊治療に努めるシーンや、知ったあとも、だからこそ一人娘への愛情に気づく流れをはっきりと描くべき。ただでさえ、再婚で連れ子がいた境遇なのですから、娘への感情移入を省いたら没入しようにもできません。

2.姿をくらまさない

作品を全否定するようなものですが、やはり、愛する娘を置いて出ていくなどニグレクトもいいところ。仮にどうしても男を渡り歩くのなら、病気のことも娘に打ち明けたうえで最善策を見つけているのだと説得するべきです。作中の母親の行動が全て非合理的すぎては感動がインスタントなものになってしまいます。

3.真のシン・シンデレラ像を提起せよ

現代社会の女性は多くの人が自立しています。今では、アメリカよりも仕事に就く女性の割合が多い日本なのですから、イケメン同級生と結ばれるのは良いとして、安っぽい〝結婚が女の幸せ〟みたいなゴールは相応しくないかなと。結婚式のシーンはむしろ適当に済ませて、ピアノ奏者として活躍する夫と、料理人として頑張る主人公の新たな家族模様を俯瞰で見る終わり方の方が美しかったと思います。

以上、長く論評しましたが好きなように書き記しました。色々な見方はありますが、ここをもう少し良くしたら傑作や佳作になれたのにという作品が多い気がします。無理やりに感動させようとして、逆にストーリーがチグハグになるのは本末転倒。ヘタに突拍子も無い味付けで攻めるより、現実に起こり得る内容で真っ向勝負した方が素敵なストーリーになると思いますよ。

がんばれ、邦画!