17世紀に実在したと言われるイタリアの修道女ベネデッタ・カルリーニを題材にした作品。厳密には、当時行われた宗教裁判の記録を基にした1985年のノンフィクション書籍「ルネサンス修道女物語: 聖と性のミクロストリア」をベースに映像化しているらしい。
幼い頃から不思議な能力を持ち、修道院に入ってからは「イエス・キリストが見える」事を公言。宗教をネタに金銭を搾取していた教会の中で、ある意味、そうした現実を超越する存在として頭角を現したベネデッタは、組織の脅威となっていく。
17世紀の教会を舞台にしたサスペンスとして、同性愛を含むタブーにも挑む斬新な宗教解釈の話として、そしてエログロ・トンデモ・ホラーとしても楽しめるという、なかなか豪快な作品だ。事実を題材にする事から生まれるリアリティや共感性などまるで関心が無いような、我が道を行く作風は、現代に於いて貴重と言えるかもしれない。
そんな豪快な作風を支えるのは、17世紀の街並みや教会を再現する美術面の充実だ。中世の建造物に見られる美しさは勿論なのだが、トイレも、医療も、そして宗教も、衛生面が整っていない環境の中で行われていた時代の生々しさが、何ともグロテスクな世界観を作り出している。久々にオリジナリティの塊みたいな映画を観た。