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スティルウォーターのmaverickのレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
4.6
2021年のアメリカ映画。主演はマット・デイモン。監督は『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシー。


娘の無実を証明するため、異国の地で奔走する父親をマット・デイモンが好演する。童顔で実年齢よりも幼く見えていた彼も、こういう父親役を違和感なく演じれるようになった。彼が演じるビルという男は、学もない駄目な父親だと娘から距離を置かれている。そういう役に対しての説得力がしっかりと表れていた。

娘はこの父親を軽蔑している。でも娘のために全てを投げうって寄り添うビルには好感を持てる。むしろ娘の性格の悪さの方が際立っており、そんなビルに可哀想だと同情してしまう。証拠集めを手伝うヴィルジニーという女性と、彼女の娘との良好な関係性などからもビルの人柄の良さが表れている。そんな彼だが、やっぱり駄目な人間なんだなというのが露呈してしまう。ビルは言う「自分はクズな人間だ」と。その彼の娘も、自分がその親の子で自らもクズであると認識している。自分に染みついた、そういう人間性を変えることはとても困難なのだと感じさせる話だ。

ビルの娘で無実を訴えるアリソンを、『リトル・ミス・サンシャイン』『私の中のあなた』のアビゲイル・ブレスリンが演じる。子役として有名な彼女だが、成長してさらに良い女優となった。本作でも力強い熱演ぶりが光っている。父親との確執、大好きな恋人との永遠の別れ、無実の罪で投獄される苦しみ。様々な感情が交錯する非常に難しい役柄。性格の悪さが目立つが、本当は優しい子なんだろうなと思わせる。状況に応じて感情も様々に変化し、そのどれを取ってみても彼女の心情が理解出来る。本作はビルとアリソンとの親子の物語。マット・デイモンとアビゲイル・ブレスリンの、二人の演技の相乗効果が本作をより良質なものへと昇華させていて素晴らしかった。

ビルが娘の無実の証拠を集める中で親交を深める、ヴィルジニーという女性と彼女の8歳の娘マヤ。この母娘とビルとの関係性も本作に深みを与えている。こんなクズな人間でも新しい幸せな生き方が出来るのかもという主人公の希望の部分を感じさせる。その上でのあのラスト。本当に考えさせられる話だ。


とても良質な人間ドラマ。脚本、監督の手腕、役者の演技、どれもが優れている。白と黒、そうはっきりと色分け出来ない人間の複雑な感情。それをひしひしと感じさせる素晴らしい作品であった。『スティルウォーター』という地名がタイトルであり、それが作品性を表しているのも好きだな。
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