アニマル泉

逆光のアニマル泉のレビュー・感想・評価

逆光(2021年製作の映画)
3.8
脚本・渡辺あや、主役の須崎蓮が初監督した。制作資金はクラウドファンドで集めたという。
残念ながら作品がひ弱い、監督が力不足だ。本作に必須なのはエロスと官能である。本作には、氷、たらいの水、海といた「水」の主題や、蚊帳などの「布」の主題など官能的になる要素が沢山あるのに活かされていない。本作の勝負所は中崎敏の日焼けした背中を須崎が氷枕を当てて冷ます場面だ。このクライマックスが全くの不発に終わっている。例えばケリー・ライカートの「オールド・ジョイ」は男二人の一泊旅行を描いていて、二人が露天風呂に入る場面がクライマックスだ。「悲しみは使い古した喜びだ」というタイトルに直結する決定的なセリフを呟くと、相手の男は意を決して湯から立ち上がり、主人公の男の背後に回って不意に後ろから体を揉み始める。初めて2人が触れる。そして主人公の手が湯の中に落ちるアップ。視線は交わらず、触覚で通じ合う、この官能とスリルを見習って欲しい。あるいはエリック・ロメールの「クレールの膝」のエロス、おじさんが少女の膝を撫でたい、ただそれだけの欲望で作品を作ってしまう恐るべきエロスを凌駕して欲しい。本作は頻繁に煙草を吸う場面がある。ここも須崎と中崎が煙草に火をつけるのをキスシーンのように撮らなければ面白くないのだ。
アニマル泉

アニマル泉