幽斎

スクリームの幽斎のレビュー・感想・評価

スクリーム(2022年製作の映画)
4.2
恒例のシリーズ時系列
1996年 4.4 Scream スラッシャー・スリラーの原点、蘇るファイナルガール
1997年 4.0 Scream 2 続編あるあるを地で行く路線
2000年 3.8 Scream 3 同じパターンでそりゃ飽きるよ、シリーズ最終作未遂
2011年 3.8 Scream 4 10年振りのファン感謝祭、気分は同窓会
2022年 4.2 Scream 本作、ナンバリングが元に戻る
2023年  Scream X プリプロダクション

「スクリーム」シリーズはスリラーなのかマンハントなのか?。新作が出る度に議論に為るが、私はスラッシャー・スリラーと言う新ジャンルを開拓した事に先ずは敬意を表したい。シリーズの特徴は「SAW」の様に作られる度に残酷度が増し、終焉を迎えた点と異なり、前作をパロディとして関係の無い他の作品を巻き込んで茶化す点に有る。

時代は「悪魔のいけにえ」「ハロウィン」「13日の金曜日」人気殺人鬼(笑)、を産み出し隆盛を極めたが、晩年に登場した「エルム街の悪夢」Wes Craven監督はシリアス一辺倒だったホラーを、悉くホラーのお約束を破る事で先駆者の名作を徹底的にメタファーとしてスリラー化する事に成功。例えばセックスすると死ぬ、と言った定番を覆すメタ構造は秀逸だった。

ファンには好意的なシリーズだが、製作の裏側は全く違う展開の連続。「Stab」と言う世界観で前作をインクルージョンするが、製作は「2」「3」「4」何れも脚本が完成するのは撮影のギリギリ、辻褄合わせは皆さんが考えてるよりも遥かに難しい。私は大学生時代に短編ミステリーを書いた(ヘル・フライト乗客消失のレビュー参照)、見る側は気楽に批判するが「だったらお前が書いてみろよ」言いたくなる監督の気持ちも分る。

特徴1つ目、スリラーのプロット「Cliffhanger」。主人公の絶体絶命のシーンで、結末を示さないまま終わる。物語が宙にブラ下がると言う意味だが、スクリームは続編狙いでクリフハンガーを残さないので、そりやぁ骨の折れる作業だろう。監督は「3」で終わるつもりが「4」も作られた。特徴2つ目、監督よりも原案者兼プロデューサーKevin Williamsonの方が立場が上と言う事。だからシリーズの統一性も取れる訳だが、更にヤヤコシイのがシリーズの特徴3つ目に更に大物が登場。

Harvey Weinstein、今と為ってはセクハラ大王(笑)。彼はこのシリーズを入たく気に入り「我々はスクリームと言う牛から乳を搾り取るんだ」と名言?を放ち「5」「6」のシリーズ続行を明言した。が、自身のスキャンダルでワインスタイン・カンパニーは倒産。シリーズの権利も文字通りのクリフハンガー。不幸は重なるモノで生みの親Craven監督は、脳腫瘍の為この世を去ってしまう。「4」が遺作に為った。

Jason Blumがフランチャイズを買い取る噂が流れ、実際は観測気球で権利はSpyglass Mediaが落札。特徴4つ目はキャストが続編にノリノリで有る事。Neve Campbellもう48歳よ(笑)。Courteney Cox、58歳。David Arquette、50歳。彼らが盛んに続編に意欲を見せる中で、遂に監督の死を乗り越えて続編を発表。監督に「レディ・オア・ノット」Matt Bettinelli-OlpinとTyler Gillettを指名。配給はワーナーからクリフハンガーに勝利したパラマウントに決まる。

スクリームがホラーと呼べない理由はたった1つ。ソレは「1」から不変のミステリーの重要プロット「Whodunit」。ホラーで有れば犯人は明らかで「ハロウィン」の様に殺しっぷりを堪能するが、スクリームは「誰が生き残るのか?」と「誰が犯人なのか?」サーカムスタンスが絶妙で、同じ事を繰り返してる様に見えて、きちんとアップデートする事も忘れない。貴方には犯人が解りましたか?。

【ネタバレ】ダメだよ、観る前に見ちゃあ(笑)。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

「Stab」は冒頭に登場、つまり本作は過去作品の変化球だと分る。最後まで見れば、ソレがどれなのか分かる仕組みで、過去をデコレーションする。例えば今では調べるのはスマホ一択ですよね。ソレに敢えて旧式の固定電話を使う事で、スリラーの文字通りのスクリームを増量する事で「偽善と露悪」の違いを際立たせる見事なリフレクション。

David Arquetteが貫禄満点に法則を説明。①「動機は常に過去と関わりが有る」②「犯人は最初の被害者の友人の中に居る」③「恋人を信用するな」。凄く良い事言ってる様に聞こえますが、ミステリーの初歩中の初歩ですよ(笑)。指南しても肝心の聞き手が「いや、どうせ意表を付いて一番最初に戻るんでしょ」と、ミルクボーイ顔負けのノリツッコミを披露してくれる。他にも「サイコ」のパロディとか、ギャグのセンスも冴え渡ってた。

今はTwitterで簡単に作者に批判出来る。本作は、そんなアンチグレアなコア層をハッキリと有害だと斬り捨てる。ジェンダーとかポリティカル・コレクトネスに対する観客の圧力は度を超えてる。レビュー済「アンテベラム」その典型例で、何でも黒人は凄い、偉いとヨイショした結果、肝心の黒人の観客から総スカンを喰らった。にも関わらず人種問題に疎い日本では高評価。ファンとオタクとは違う、見事なサジェスチョンを描いてる。

Kevin Williamsonは続編「6」を明言してる。秀逸なのはスクリームは殺人鬼の家系は悪者だと描いた。だが、本作ではナンバリングをリセットした様に、宿命と言う名の束縛からの解放を描いた。其処に自己批判出来ないオタクを重ねる事で「Jus sanguinis」血統主義からリセットをする事で、悪の思想は「血」では無いと救いの手を差し伸べた。犯人を当てた、外したと騒ぐ裏側で周到に練られたコンセプション。これなら「6」も大いに楽しめそうだ。まぁ、序盤で当てて見せるけどね(笑)。

緻密な構成はもっと評価されて良い。スラッシャー・スリラーも次世代に突入した。
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