ゴトウ

東京クルドのゴトウのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
-
大学での講演とセットの上映会で鑑賞。

笑いながら「帰ればいい」「他の国行ってよ」という入管職員、働いてはいけない理由は「書いてあるから」「法律だから」と言い、働いてはならないならどうやって生きていけばいい?との問いかけには「それはあなたたちでなんとかして」と言う。誰がどう見ても人権意識が欠如しているのだが「法律だから」の一点であそこまで冷血になれるのがすごい。

戦後、旧植民地出身者を管理・抑圧・排除する流れの中でできた出入国管理令の流れを汲む入管法が、未だ同じロジックで機能しているというのがすごい。入管まで来た救急車が何もせずに引き返していく映像、そこに重ねられる女子アナの声、通院を許された男性は手錠に腰縄で病院に入っていく。

入管の運営は国際法違反であるとのこと、この映画が文化庁の補助金によって製作されていること、クルド人青年を「トルコの世界遺産を紹介する」役として使おうとしたテレビマンが「仮放免」と聞いて一気に態度を変えたこと、どう思って見ていればいいのだろうか。クルド人含む移民・難民が多く住むのは埼玉の蕨市や川口市であり、自分が生まれた国、街にこのような現実があるのだと改めて認識させられた。

唯一ポジティブな驚きとしてあったのは、佐藤栄学園がクルド人学生の入学を許可する様子が収められていたこと。埼玉県内の中高に通うなかで多少関わった経験からは、決して良い印象はなかった学校法人なので、映画の中で唯一といって良いような喜ばしい場面の舞台となっていたことに驚いた。

以下、講演会を聞いてのメモ。岡真理先生は研究者、著述家としては間違いなく素晴らしいのだが、このイベントにおける役割である「聞き手」としての適性があるかどうかについては疑問だった。監督の講演なのに強い語気でしゃべりまくり(ご自身で「大島渚のようにアジってしまう」とおっしゃっていた)、監督からも「何に答えたら良いのでしょうか…?」と困惑の声が漏れていた。入管の人権侵害は明白であろうとは思うが、これはどういう催しなのかと首を傾げたくなるような進行。監督も「オザンとラマザンがイケメンだったから撮りたくなった」とか言うし、岡先生も「映画の中で一人暮らししてたけどあの部屋は…?」と暗に交際相手がいるのではないかと勘ぐって見せたり、やや下品というか、どれがフランクでどれが無礼なのかは難しいなと感じさせる。オザン氏本人が来ているのだから、もう少し当事者の語りも聞きたかった。オザン氏は我々に何ができるのか?という学生の質問に「この場(上映・講演会)に来てくれるだけでいい。入管に文句を言いに行くとか、そういうことはしてくれなくていい」と語っていたが。もし海外に旅行に行けたら?という学生の質問に、「日本が橋をかけた国…」というオザン氏の言葉に誰もパラオを思い出せなかったのもなんだか力が抜けた。

弘川欣絵弁護士は日本人と結婚した途端にそれまでの締め付けが甘くなることに関して、ある種の同化政策ではないかと推察していた。もしそうならグロテスクにすぎる。

県や市の単位ではどのようなことがあったかを質問したら、川口市役所で「あなたは存在しない人なので」と言われたと語ってくれた。本人が笑いながら話していたからか、会場にもやや笑いが起きていたが、とても笑う気にはなれず、返す言葉がなかった。
ゴトウ

ゴトウ