※点数制が好きじゃないのでどの作品も満点に設定してます。
一枚の絵画を観ているかのように作品を観ていた。
その絵は、何か概念やメッセージを伝えようとするでもないのに、観ているだけでその中にひきこまれて行く。そんな吸引力を持った絵。
とにかく映像作品だからこういう表現をするのだという事に尽力していた。
ストーリーでもなくドキュメンタリーでもない、そのものを撮り切ったというものだった。
とにかく、映像と音が素晴らしい。
映像からにおいがしてきそうなほどの生々しさに感受性を揺さぶられるようだった。
役者陣も凄まじくて、津田寛治さんはいい意味で津田さんらしい役作りをされる方だと認識していたけれど、スクリーンに居るのは小野田さんとしてそこに在る姿だった。
また、遠藤雄弥さんが、本作での青年期の小野田をどのように表現されるのかをすごく楽しみにしていたのだけれど、
表情を大きく動かさないのに、小野田の心の繊細な動き(作品の中で一番、小野田さんの感情表現が豊かな時期が遠藤さん演じる青年期。)が伝わってくる巧みさがさすがだった。
特に眼差しがすごくいい。
戦後スペシャルのTVドラマのような、扇情的なドラマ作品ではないからこそ、私は逆に作品に集中する事ができた。終始どこか身を固くこわばらせて観ていたかもしれない。
そんなだったからか、涙してるどころではなかったけど、小野田と仲野大賀さん演じる鈴木が飲み交わす場面で、何故か急に泣けてきて仕方なかった。
まだ戦争してる人と平和の人が交わろうとしてる。
正気の沙汰じゃないなと思う一方、
でも、多分伝えるってきっとこういう正気じゃない事だと感動してた。
いい映画観たなぁと、心から満足できた作品だった。
平日の映画館、他の観客は老年の男性が数人。
彼らはどんな思いでこの作品を観ていたのだろうと気になっていた。