回想シーンでご飯3杯いける

ONODA 一万夜を越えての回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

ONODA 一万夜を越えて(2021年製作の映画)
4.0
何だか凄い物を観てしまった気分だ。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門オープニング作品。第二次世界大戦で日本陸軍将校としてフィリピンに於けるゲリラ戦に参加。その命令の特殊性から、終戦後も潜伏を続け、29年を経て日本に帰還した小野田寛郎氏の半生を描いた作品である。

本作の特徴は、原作も監督もフランス人である事。日本人がこの題材で映画を作ると、小野田氏を英雄視した作風になってしまいそうなのだが、大戦では日本の敵国であったフランス人、そして原作者を筆頭に、終戦後の社会で日本に深く関わってきたスタッフが携わる事で、客観的であると同時に、主人公に対する敬意と、彼を囲む状況に対する風刺的視点を併せ持つ、非常に中身の濃い作品に仕上がっている。

主人公の青年時代からフィリピンの山岳地帯での長い潜伏期間まで、2時間以上の尺を割いているが、彼が過ごしてきた時間の長さを考えれば、これでもまだ短いぐらいである。トム・ハンクス主演の無人島サバイバル映画「キャスト・アウェイ」も長かったが、本作にはコメディ要素も無く、戦争が生み出す辛く長い時間をひたすらドライに描き出していく。

周辺国からラジオを通じて流れてくる戦後のニュースも、敵国が作ったフェイクだ、と聞く耳を持たない主人公。このシーンは現代の右翼が陰謀論にはまっていく構図と非常に似ている。偏った教育や、極度の軍事的警戒心が生み出す、思想の歪みである。

小野田氏と、仲野太賀が演じる青年の対話を描くシーンが強く心に残る。大戦中の思想を抱えたまま生き延びた小野田氏と、戦後の平和を謳歌する若者の対比。まるでタイムスリップ映画のような光景であるが、これに近い事が実際に起こったのである。