このレビューはネタバレを含みます
2024年424本目
百獣の王の力
一旦終了してしまうらしいSSU(ソニーズ・スパイダー・ユニバース)の第4作目
スパイダーマンの宿敵として知られるアンチヒーロー、クレイヴン・ザ・ハンターの誕生物語。
幼い頃、裏社会を牛耳る冷酷な父親とともに狩猟に出た際、巨大なライオンに襲われたことをきっかけに「百獣の王」のパワーをその身に宿し、最強のハンターと化したクレイヴン。金儲けのために罪のない動物を殺める人間たちを狩りの対象とし、一度狙った獲物はどこまでも追い続け、必ず自らの手で仕留める。そこでクレイヴンは自分の父親がもたらした悪と直面し、一度は縁を切ったはずの父親との対峙を余儀なくされる。さらに、病弱な弟が危険にさらされたことでクレイヴンは激昂。そして、全身が硬い皮膚に覆われた巨大な怪物・ライノの出現によって、戦いは次第にエスカレートしていく。
主演は、次期ジェームズ・ボンドとも噂されるアーロン・テイラー=ジョンソン。共演に、『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズ、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のフレッド・ヘッキンジャー、『アメリカン・ハッスル』のアレッサンドロ・ニヴォラ、『ファースト・マン』のクリストファー・アボット、『ソー:ラブ&サンダー』のラッセル・クロウら。『アイアンマン』のマット・ホロウェイ&アート・マーカム、『イコライザー』シリーズのリチャード・ウェンクが脚本を手掛け、『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』のJ・C・チャンダーが監督を務めた。
本作は、セルゲイ・クレイヴィノフがいかにして悪名高い「最強のハンター」となったのかを描いた物語。その過程には、父・ニコライとの因縁や確執、弟・ディミトリとの関係性といった複雑な家族のドラマが織り込まれている。ラッセル・クロウの圧倒的な存在感は、物語の重厚さを支える要素となっていて、「力こそ全て」という信念を持つニコライの威圧感は半端じゃない。そんな支配的な父に対するセルゲイの反発は、家父長制への批判というテーマ性を帯びている。
本作の大きな見どころは、激しいアクションシーンの数々。冒頭の刑務所での襲撃シーンを皮切りに、猛獣の如き野性味を感じさせるクレイヴンの戦いが次々披露され、アーロン・テイラー=ジョンソンの鍛え上げられた肉体美と、最新のCG技術が融合している。素足でアスファルトを駆け抜ける姿や、四足動物の動きを模したジャンプや滑走など、そのすべてがリアルさと非現実的なスケール感を共存させている。また、SSU初のR指定作品に相応しいバイオレンス描写も本作の魅力の一部。特に、ギャングのボスをナイフで仕留めるシーンは、緊張感と冷徹さに満ち、クレイヴンというキャラクターの非情さを鮮烈に印象付ける。その所作には、残酷さの中に美しさが宿り、観る者に「強者が生き残る」という自然界の厳しい掟を思い起こさせる。
本作は、タイトルキャラクター以外の登場人物も魅力的に描かれている。ディミトリ役のフレッド・ヘッキンジャーは、弱々しさと力への渇望を巧みに演じ、単なる脇役以上の存在感を放った。物語の最後で彼が「カメレオン」として新たな道を歩むことを暗示する展開は、続編への期待感を高めるもの。また、アリアナ・デボーズ演じるカリプソは、単なる情報収集役としてだけでなく、知性と強さを兼ね備えたキャラクターとして魅力的に映った。さらに、ライノや、催眠能力を持つ敵キャラ「ザ・フォーリナー」など、スパイダーマンの世界観に基づくキャラクターの登場がアメコミファンを喜ばせる要素となっている。
公開直前の報道で「SSU終了の可能性」が示唆されたことにより、観客の関心が分散されてしまったところは可哀想に感じる。個人的には前評判ほど酷いものだとは思わなかったし、アーロン・テイラー=ジョンソンファンとしてはそれなりに楽しめた。SSU自体がMCUとの連携やユニバース構想における明確なビジョンを欠いており、その不安定さが本作の受け止められ方に影響を与えている点も否めないと思う。シニスター・シックスはどうなっちゃうんだろうなあ。