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英雄の証明のらのレビュー・感想・評価

英雄の証明(2021年製作の映画)
3.9
緻密な脚本とストーリー・テリングの妙はまさに圧巻で、さすがアスガー・ファルハディ。やっぱり天才。

"英雄"は利用され、熱狂のうちに祭り上げられて消費される。主人公ラヒム自身も例外でなく、当初こそ"英雄"化することを望んでいなかったが、やがて世間からの注目を利用して窮状を脱そうとするようになる。そこに、場当たり的な嘘、ちょっとした善意や悪意、思惑のすれ違い、さまざまな利害関係、憎しみ、SNSによる無責任な世評が積み重なって事態はどんどん複雑なものになっていく。ここらへんで『マグノリア』よろしく「カエルの雨」を降らせたくなってくる。あまりにもシニカルな(しかし、それでいてしっかりと現代の社会状況を反映した)内容で、観ていてむしろ気持ちよさを覚えた。端的に言うと面白い。

主人公のラヒムが全くの善人にはとても思えず、胡散臭い人物であることも物語に重層的な構造を与えている。お金の貸し手バーラムの娘ナザニンが、ラヒムを見るあの視線によって雄弁に物語るもの…。ナザニンだけでなくラヒムの息子シアヴァシュを始めとする子供たちの視線は、何よりも豊かな情報を含んでいるようで想像力をかき立てられる(シアヴァシュは吃音症で人より上手く言葉を発することができず、言葉数も少ないという人物像からも分かるように、彼の視線は重要な意味を持つものとして強調されている)。
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