ユーライ

ニトラム/NITRAMのユーライのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.7
こういう周囲と馴染めずに鬱屈していく青年の映画は我が国にもゴロゴロしているが、銃による武装に傾倒していく、そしてフィクションであることを公言しながら実録の要素がある点で『丑三つの村』が当然のように思い起こされる。差異があるとすれば、彼の心情に踏み込んで観客のフラストレーションが解消されるような共犯関係に持ち込むのではなく、劇的な展開を出来るだけ排しあくまでも穏やかに経過を見つめていく。途中で登場する金持ちのオバチャンの存在がどうしてもリアリティに欠けるように思えてしまったのだが、先の展開を読ませない意味では貢献している。彼を取り巻く社会と雄大な自然、そこから浮かび上がる異常性の逆説は中上健次による『火まつり』や影響下にある高村薫『冷血』と近い。犯行の直前にショボいオレンジジュースと雑に盛られたフルーツを食べながら辺りに充満する人の群れを見て「結局あの中には入れなかった」と述懐する(ようにしか私には見えない)シーンがベスト。ラストショットの母子の隔たりには徹底を感じる。不穏になると流れる勿体付けた重低音は余計に感じた。
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