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MEMORIA メモリアのIRIのレビュー・感想・評価

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)
5.0
現代の狭い見方や常識が強固なものだと信じ込まさせられていることをときほぐしてくれる素晴らしい映画だった。

僕らは無意識に、ほとんど全てのことは頑張ればコントロール可能で、ほとんど全てのことは頑張れば原因を明らかにできると思っている。実際、頭の中の音さえもつくりだせるし、花を無菌状態にして育てる冷蔵庫もあるし、6000年前の人の顎関節症さえもわかってしまう。

そんな人間の万能性は、世界の見方を狭めてしまっている気がした。頭の中で鳴る未知の音に対して血流の悪さが原因であると結論づけるように、僕らは社会の中で起きていることの原因をすごくシンプルに解釈し、どうにかできると過信している。

しかし、アピチャッポンはメモリアで最初からその狭い常識を打ち壊してくれている。頭の中で鳴る不穏な音、急に同期して鳴る車のアラーム音、不穏に付いてくる犬、存在自体が消えてしまう音響エンジニアのエルナン、、、この映画に上手くついていけない人が多くいるのはこんな原因不明の連続のせいだからだろう。

では、僕らはこの人間万能的思考から脱してどうすべきかというと、山奥に住むエルナンの言うように「情報を制限」すべきなのだと思う。それによって身近なものに対して注意深くいれるし、未知のものに対して謙虚さを抱くことができる。携帯を手放せない今の時代、エルナンのように情報を遮断することは難しいが、過剰な情報から適度に距離を置くことで身近なストーリーに耳を凝らす努力は今後もっと重要になってくるように感じた。

ちなみに、今まで数回メモリアを観てきてなぜコロンビアを選んだのかはわからないままだった。たぶん、先進国ではない土着的な要素がある場所が必要で、そういう場所の方が先進国の狭い価値観から逃れて未来への想像力が働く場所だったのかもしれない。
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