Demoitu

アリスとテレスのまぼろし工場のDemoituのレビュー・感想・評価

4.1
あの日見た花の名前を僕はまだ知らないの岡田麿里監督作品。
生と死、無知と無垢、純粋な想いと願い、あの花と似たような題材を、全く異なる角度から再度描いた作品。
放映開始にも関わらず映画館はガラガラ、少し期待外したかなと勘繰ったのも杞憂となり、とても素晴らしい作品でした。

今年映画館で観た中で現状一番感動した作品であることは間違いない。




製鉄所の事故により外の世界と断絶された町、見伏。
トンネルが塞がれた、海流によって海からも外に出れなくなってしまった町は季節も進まず、見せかけだけの太陽が昇り降りする毎日。
その鬱屈とした毎日に飽き飽きとした女の子のような見た目の少年、正宗。

正宗には嫌いな女の子がいる。佐上睦実だ。彼女の一挙手一投足にイラつき、目に入れないように目で追っている。

睦実は、正宗に「退屈を吹っ飛ばす事を教えてあげる」と伝え、事故のあった製鉄所に連れて行く。
そこには言葉を喋れない獣のような、しかし睦実そっくりの女の子がいた。

睦実の叔父により神の巫女として崇められ、閉じ込められているその少女の世話を睦実がしているからそれを手伝ってくれということらしい。

退屈な毎日に言葉を持たない少女との交流が加わり、正宗の時間は良くも悪くも動き出す、、、



時が止まってしまった世界。そこで数年もの間許しを待ち続ける町の人々。季節も動かず、身体的な成長もなく、ただただ時間だけが過ぎていき、感情を昂らせないように、自分を見失わないようにゴールの見えない綱渡りをしているかのような毎日。
変化は悪で現状維持こそ救いだというある種現代へのアンチテーゼ的な思想もあるかなという世界観。

しかし、閉じ込められれば出たくなるように、痛みを感じなければ痛みを感じたくなるように、変化を嫌えば変化したくなるように少年たちの心は揺れ動いて長く成っていく。


なにかを夢見る事が嫌われ、無意味だ、悪だと言われる中で、少年達が観る夢。想う心。

少しづつ解き明かされて行く世界の真実、亡き父に教えられる変化・成長する事の偉大さ、嬉しさ。それを他に与える事のできる優しさ。


トレーラーにある「未来はあなたのモノよ、でも正宗は私のもの」「大っ嫌い...」というどろどろとした台詞のやり取りは、一見14歳くらいの年端も行かない子供達の無垢故の残酷な恋愛のやりとりを想像するが、こんな形で見せて来るかというくらいに印象が変わる。
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