Jun潤

モガディシュ 脱出までの14日間のJun潤のレビュー・感想・評価

3.8
2022.07.11

予告を見て気になった作品。
どうも韓国作品に対しては食指が鈍りますが、今作は予告の時点でこれまた好みの歴史的事件を個人の目線から描く作品のよう。
これは観ないわけにいかない、鑑賞の結果『ベイビー・ブローカー』と合わせて、韓国映画にもさらに興味が出ることを祈って。

韓国の国際連合加盟を目指し、国連内で発言力を持つアフリカ諸国の一つ・ソマリアの首都モガディシュの大使館で働くハン大使とカン参事官。
同じく国連加盟を目指していた北朝鮮のリム大使とテ参事官とは、互いに妨害や裏工作などの暗躍をし合っていた。
1990年代初頭、ソマリアの治安が悪化、モガディシュでは反乱軍が暴動を起こし、韓国と北朝鮮も戦闘に巻き込まれる。
支援や物資、護衛が不足している中で、国への帰還と家族の安全のために両国が取った策は、対立の壁を超え、協力し合ってモガディシュからの脱出を図ることだった。
しかし、閉ざされた大使館内では大使同士による牽制し合いが続いており、他国の大使館との交渉に活路を見出すが、より多くが助かることを目的にしている両国の運命は果たしてー。

ほう、これが韓国映画の実力ですか。
「モガディシュの戦闘」中に起きた韓国と北朝鮮の情報戦を、人間ドラマとアクションから描き、人間の本性が悪にあるのか善にあるのかを浮かび上がらせる。
国家間の交渉だけでなく市街地戦闘や対人戦闘まで組み込まれ、邦画界では決して出せないハリウッドイズムを醸し出す大作映画感。

画面の豪華さだけでなく、随所に散りばめられたシリアスな笑いの場面もまた印象的で、当時の現場の極限状況だからこそ生まれる、死に直面した至って真剣な人間同士の普通のやりとりが、どこかシュールに見えてくるまさに映画マジック。

あとは子供の描き方も印象に残っており、北朝鮮の大使館にいる子供たちの、状況への理解などなくただ目の前の危機に対して怯え戸惑っている姿だけでなく、人の死も戦い方も碌に知らず、おもちゃのように本物の銃を持つモガディシュの子供たちで、戦争と暴力が人々の生活に刻む傷跡の深さを如実に表す構成にただただ脱帽。

演技については、普段韓国映画に触れていないので初見の方ばかりでしたが、カン参事官を演じたチョ・インソンの顔と雰囲気がまるで昭和の銀幕スターのように、ギラギラ感と圧倒的な存在感を併せ持っていましたね。

終わりのないコロナ禍に加え、ウクライナ侵攻などの世界的な情勢不安、さらには日本国内でも安倍元首相暗殺事件という凄惨な出来事が起き、内戦や戦争が他人事とは決して言えなくなってしまった昨今。
今作では、まさにそういった状況下における人間を描いており、あくまで自国の利益のために動く人々や、銃を乱射し続ける反乱軍や政府軍も、より大きな力には従う他無いという、性悪説の方が強調されていました。
しかし時に、自国の利益よりも目の前の人の命を優先したり、自分のためにした行動が巡り巡って顔も知らない子供の未来を守るなど、性善説の存在もまだ信じられるのかなと微かな救いを感じさせる作品。
Jun潤

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