湯林檎

戦場のピアニストの湯林檎のレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.2
お久しぶりの長編映画レビューです🎬
Amazonプライムの見放題が本日で終了とのことで何とか試聴に間に合った!!

尚、今回のレビューはストーリーの原作が実話なので思い切りネタバレを含めて書きますのでご了承ください💧

この映画の存在は勿論のこと主人公のピアニスト・シュピルマン自身のこともある程度のことは知っている。何なら彼の演奏のCDも少し前に聴いていて、2ヶ月前の9/1、9/3にピアノ曲集の感想をツイートした(Twitter及びTwilogにもう少し詳しく載ってます)。この時の感想としては個人的に曲によって演奏の仕方に納得がいかない部分もあってか、この人のピアニストとしての魅力がどこにあるのかイマイチ分からずにいた。
しかし、この映画を観ていくうちにこんな気持ちを抱いていた自分を説教したくなってしまった。。。やはり彼は偉大な人でした。

映画全体の感想としてはやはりとても酷くて苦しいシーンの連続で観ていてしんどい時もあった。とにかく映画序盤から酷い有様でラジオ局で演奏していると爆撃を受け、いきなり不穏な空気が漂う。生活費や食べ物に困るだけでなく、普通ならベヒシュタインのアップライトピアノの中古でも日本円で最低150万円前後で売れるところを2000ズウォティ(日本円で約54,500円)という有り得ない額でしか買い取ってくれず、音楽面でもかなり過酷な生活が始まる。当然ながら亡命中はピアノは弾けない。ピアニストの彼にとっては相当辛い日々だったのは間違いなく、ホコリまみれのピアノの鍵盤の上で「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を頭でイメージしながら宙で弾いているシーンは思わず涙を誘った。当たり前のように行われた演奏会、当たり前のように弾けたピアノ、そんな生活を奪った戦争はとても憎い。。。そんな気持ちがエイドリアン・ブロディの繊細な演技によってひしひしと伝わってきた。
手に入る(盗む?)食糧はほんの少し、着ている衣服もボロボロでいつ死んでもおかしくない状況下で常に考えていることは音楽のこと。そして終戦後、シュピルマンは最後に満面の笑みで「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を弾いて歓声を浴びるラストはシュピルマンがピアニストの本来の姿を取り戻したかのように感じてとても良かった。私は毎日のように音楽を聴いているけど、こうしたことができるのも今戦争がなくて平穏に過ごせているからだとこの作品を通して改めて感じることができた。

シュピルマン以外にも第二次世界大戦で辛い経験をした音楽家はいるし、中には亡命先で亡くなった人もいる。この大戦によって何世紀と続いていたクラシック音楽の流れもまた違う方向に変わってしまった(この辺の話は岡田暁生著「西洋音楽史 「クラシックの黄昏」」の後半に書いてあり、いわゆる作曲家が名曲を次々と書き上げて発表する時代は過ぎ去った)。
しかし、もしヒトラーが生まれてなければ20世紀は果たして平安な時代だっただろうか、21世紀現在は今のように比較的自由な世の中であるだろうか。当たり前だけどタイムマシンがない限り歴史は変えられないし、できたとしても多分何かしらのパラドックスが起きて100%理想的な世の中は訪れないと思う。
ありのままの過去を受け入れつつも今の自分達と戦争を生き抜いたご先祖様達に感謝をしようと思える作品だった。
湯林檎

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