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THE MOLE(ザ・モール)のnetfilmsのレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
4.1
 本当にこれは隠しカメラによる映像なのかと、我々観客はいま何を見せられているのかと心底ぎょっとした。ふつう、監視カメラの映像は撮影する側の服や小道具のどこかに仕込まれ、対象を知らないうちに見つめるものだが、今作ではおそらく座席やテーブル、地面や物陰の裏にまで用意周到に張り巡らされ、カットバックやカメラ・ポイントの編集もお手の物だ。どう考えても作為的で、いかにも胡散臭い匂いが漂う。これ率直に言って、どうして手練れの人物たちが揃っているはずの北朝鮮側はスパイ・カメラの存在に気付かなかったのだろうか?そのハッタリ的だが流麗な手裁きはキム・ジョンナム殺害事件を遥かに越えてしまっている。それもこれも今作の仕掛人となるウルリク・ラーセンという男の飛び抜けて普通な風貌の賜物といえよう。元料理人で、髪の毛を剃り上げた男の背中や腕にはガッツリとタトゥーが彫り込まれているが、服装に隠れて見えない。彼は至って普通の身なりと表情で会う人々の警戒心を解きながら、彼らの犯罪の一部始終を盗聴・盗撮し、全世界に暴こうとする。その姿勢は明らかにサイコパスそのものと言っていい。

 すべての始まりは、監督のもとに届いた一通のメールである。彼の退屈な日常がそうさせたのかもしれないが、その送り主であるコペンハーゲン郊外在住の元料理人ウルリク・ラーセンは、謎に満ちた独裁国家、北朝鮮の真実を白日の下に晒すドキュメンタリーを作ってくれと。彼には妻と子供がいながら、ここではないどこかを夢想し、海の向こうの独裁国家の隠れた陰謀を暴こうとした。ブリュガーは一旦は返答を濁したものの、それで引くようなウルリクではない。自らの意思でコペンハーゲンの北朝鮮友好協会に潜入した彼はKFA(朝鮮親善協会)会長アレハンドロの信認を勝ち得て、協会内で異例のスピード出世を果たして行く。そしてそこには元フランス軍外人部隊の“ジム”という胡散臭い男も加わるのだ。一手でも悪手があれば勘付かれ、命の危険にさらされるようなウルリクとミスター・ジェームズのハッタリ旅行はまさに命を懸けた綱渡り級の生死を掛けた「詐欺行為」だ。彼らの嘘は実際に南海の孤島を島ごと買い取り、アフリカの人々をもネゴシエーションに巻き込みながら、世界を股に掛けたマフィア級の資金洗浄・武器の密輸入ビジネスに手を染める。誤解なきようにもう一度言っておきたいのだがここには作為的な演出はどこにも含まれていない(らしい)。息を吐くように嘘をつくウルリクの精神性は我々にはまったく理解不能で、それ故に北朝鮮側も彼を信じ切ってしまったのだと思うが、この稀代の詐欺師が妻の前ではタジタジになるあたりに、おいおいと更に驚愕してしまう。
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