パイルD3

ジャッカーのパイルD3のレビュー・感想・評価

ジャッカー(1988年製作の映画)
4.0
【お気に入りの一夜の出来事映画】①

「アフター・アワーズ」のように一夜の出来事を描いた映画はいろいろありますが、私がお気に入りの輝く拾い物が2作品ありまして、まず一本目が、
マフィアに雇われた殺し屋二人組が、殺人現場を目撃した少年を連れ去り、深夜のハイウェイを疾走する『ジャッカー』

これは単なるB級サスペンスアクションと片付けられない、少し異なる魅力を持つ作品。

ほぼ車内という狭いシチュエーションの中で、殺気だった緊張感をベースに抑揚のある張り詰めたストーリーが展開し、道中の人間ドラマやバイオレンスシーンにもあれこれ小細工を仕掛けた脚本が巧い。
更に86分という短尺とは思えない余分な脂質抜きの構成はキレがいい。

監督は究極のカー・スリラー『ヒッチャー』や吸血鬼の娘に魅かれて自らも吸血鬼になった青年の苦悩を描いた異色ホラー『ニア・ダーク/月夜の出来事』の(女性監督キャスリーン・ビグローとの共同)脚本で注目されたエリック・レッド。これが監督デビュー作。

【ジャッカー】
原題「Cohen and Tate」は、殺し屋2人の(多分)偽名で、ベテランの初老の殺し屋コーエン(ロイ・シャイダー)と暴力的な若僧の殺し屋テイト(アダム・ボールドウィン)のこと。

そしてこの2人の人格のコントラストを強調する仕掛けとして“少年“を間に挟んだところが見事で、静と動、冷と熱、繊細と粗暴、熟慮と軽挙、互いの行動の基準も確信と思いつき程の差があり、暗殺と殺戮程の差があることが次第に浮き彫りになる。

こうも相反する人格を持つコンビが、どうやって危険を孕んだ任務遂行役に選ばれたのかは不明だが、引退の近いリーダー格のヒットマンは任務に忠実で、あくまでも少年を組織に引き渡すことに体を張る。
短気で軽薄なヤングソルジャーの方は、意味もなく血に飢えており、今回の仕事を戦闘と勘違いしているふしがある。

9歳の少年は、早々と2人の選択しようとする手段のギャップに気づき、それを利用して脱出のチャンスを狙う。
この小僧の抜け目の無さが、直線的なストーリーのフックになっていて、監督は殺し屋2人ではなく、3人の虚々実々のタクティクスドラマとして成立させている。
そんな3人の距離感の描き分けが最大の見どころで、犯罪映画らしい苦味と決着が待っている


【ロイ・シャイダーのこと】

オフホワイトのステンカラーコートにダークスーツ、銃を手にする時につける黒い手袋、片耳には補聴器という、一見地味だが、プロの殺し屋のクールなコスチュームがよく似合う渋い名優ロイ・シャイダー。
茶髪気味の髪色は自らの提案だろうか?いつものシャイダーにはない危険度が漂う。

当初この役は、ジーン・ハックマンとジョン・カサヴェテスにオファーされていたらしい。(ちなみにボールドウィンの役は、ビル・パクストンとマイケル・パレの名前が挙がっていた)

「ジャッカー」は、シャイダーにとって、丁度キャリアの中間点に位置する作品。
「フレンチ・コネクション」「ザ・セブンアップス」「ジョーズ」「恐怖の報酬」など、基本は
善人役の多い演技派だったが、そんなイメージを一変させる役作りだった。

この静かな抑制された演技で見せた、冷淡な殺し屋の内面に善悪混在するニュートラル風なアウトローは正に適役で、忘れられない存在感を残した
パイルD3

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