このレビューはネタバレを含みます
苦しくて重たくて二酸化炭素吸い込んでるみたいな良い作品だった。画が静かで美しかった。
めちゃめちゃ表面的に言うとやべえ奴がたくさん出てくる、という話だけれど、そういうラベリングはバックグラウンドを何も知らない人の言い草であったりもすると改めて感じた。
行政に頼ったり医者に行ったりしてみては、とか警察にはちゃんと説明せえ!というツッコミはしたいけれどギリギリさておくことにする。
・人は見たいようにしか見ない
・また流れていけば良いよ
・サラサはサラサだけのものだ。誰にも好きにさせちゃいけない
印象的だったのがこの台詞たち(ニュアンス)
月の見える面って限られていて、それを都合よくウサギが餅つきしてる!とか蟹がいる!とか言うだけで、そういういわば"分かられてない"状態のままにはなってしまうんだろうけれど、心地よく暮らせる場所へ2人(サラサとフミ)が流れていければいいなと思った。どこでもそうであれよというのは思うけれど。共依存と言えば共依存だけれど、人間わりと大なり小なりそんなもんなのでは。
正しさってなんだろう、と思った。親だからって、付き合ってるからって、関係性が"正しい"わけではない。大学生の男性が10歳の女の子を誘拐したって聞くとその大学生への嫌悪感とかありえないみたいな気持ちが湧く人が多いだろうけれど、むしろフミとサラサの関係性の方がユートピアに見えるくらいだった。10歳で預けられた叔母の家で年上の従兄弟に夜な夜な触られたり25歳になって彼氏と同棲してる時に勝手に迫られたりあざになるくらい握られたり殴られたり蹴られたりして血まみれになるより良くない?と思う。
逆に、同年代や大人を好きになるのを"良いこと""当たり前"とする価値観も私は不思議だなと思う。
10歳のサラサを演じた白鳥玉季さんすごかった。表情、間、台詞回し、全部がフミとのユートピア形成に説得力をもたせていて、無理矢理じゃなかったんだ、ユートピアだったんだ、と感じた。横浜流星さんすごくモラハラ人間演じるの上手くて虫唾が走った(褒めています)。
リョウはもう逃げられたくないから、"従わせて離れられない"状況を作ろうとするけれど、それは彼自身が母親に捨てられた経験が関わっていて…だからって不安定さをぶつける理由にはならず…
一方フミはほぼずっとサラサに強いるような言動はなくて、居たいなら居ればいいとか住みたいところに住めばいいとかいうようなことを伝えていて、リョウとのコントラストが強かった。
事件として話題をさらった過去があるのにサラサがリカをフミに任せるのは周りからの目を考えると脇が甘いんじゃ?と思った。
終盤のまったくフミの顔見られない母親、見てて苦しかった。息子のこと完全に不正解だって思ってる顔に見えた。
誰にも他人のバックグラウンドの全てなんかわからないのにわかったような気になって「わかるよ」などと本気で言える場面なんてないな〜と改めて思う。万人にさまざまな可能性があって、でもそれじゃ本当に苦しんでる人を助けられない場面が出てくるとも思う。
知ったようにペチャクチャと噂を立てる世の中の害悪感がすごく出ていて良かった。あれを害悪と思わない(当然と思う)人もいるかもしれないけれど、その絶妙な温度感含めて好きだった。プライベートを詮索して金銭を得る週刊誌はやはり特に悪。
流浪の月の世の中は狭かったけれど、同時に自分に見えてるものだけが全てじゃないことも突きつけてくれたのでありがたかった。
2022-10