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ARGYLLE/アーガイルの教授のレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
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マシュー・ヴォーン作品はハズレなしと思っていた時期から、いつの間にか「もういいかな」という気分になってきたのが前作「キングスマン:ファースト・エージェント」で、スパイ・アクションのアップデートに隠れた暴力礼賛主義やら、それらをポップに包んだ演出や映像処理がバカバカしく思えて新鮮に感じられなくなったのが原因。

その為、本作は全然興味が持てなかった。
毎度毎度同じような映画を撮っている、という印象から飽きてしまっていたというのもある。
しかし、結論としては本作はこれまでの作風と大きな違いはないにも関わらず新味があって楽しかった。

特徴としては、これまでの「悪ノリ」の感があった「暴力」がそこまで強調されないところ。
一定数以上は無惨に殺されてしまうのは同じなのだが、それを無邪気に楽しむという要素はなくなりエリー(ブライス・ダラス・ハワード)が敵にトドメを刺すことを躊躇する、という形でさりげなく陰惨さを軽減させる演出を施している。
この一点があるだけで、気のせいかもしれないが表現が一段上がったという印象がある。

またエンターテイメント映画としてのプライドとして、ドンデン返し主体の展開への風潮に対しても「これみよがし」に取り入れたようなユーモアの辛辣さ。
「面白さ」はギミックではなく、その「面白さ」に対して強い美意識があるかどうかというこれまでのマシュー・ヴォーン作品の醍醐味を感じる。

その上で、これもさりげなく「記憶」や「物語」と個人の内面についての言及もストーリーに織り込まれ、虚構と現実の両方が人生にとっては必要であるという「物語論」的な脚本の構造も偉ぶることなく語るその語り口は立派。

もはやブームが失速しつつある「スパイ映画」のジャンル的楽しさをアップデートしてみせた点で、充分な作品。面白かった。
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