パケ猫パケたん

最後の決闘裁判のパケ猫パケたんのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.6
14世紀末、百年戦争の時代のフランスを舞台をした、実在の人物たちを描いた映画。

黒澤明の『羅生門』(1950)を彷彿とさせる、登場人物の証言が食い違っていく、実験的な三部構成。プロットは『羅生門』程には交錯はしないが、其々の主観で描かれる映像が秀逸。例えば、夫と妻のダンスのシーンの描き分け。また絵画の様に美しい光と構図の映像。

『羅生門』が、誠実な夫、森雅之、野性的な男、三船敏郎、妖艶な妻、京マチ子と見事な配役のトライアングルを形成する、のに対して、この『最後の決闘裁判』(2021)も、マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマーが正に呼応している。更には、志村喬とベン・アフレックの重厚な演技の説得力。

ジョディ・カマーの清冽な美しさは、圧倒的で、いつまでも見つめていたい衝動。イギリス映画界が、新たな宝石を発見したであろう。

火炙りの件は、ドライアーの『裁かるゝジャンヌ』(1928)に迫るかのリアリズム。

リドリー・スコット監督らしい作品でもある。

長編デビュー作『デュエリスト/決闘者』(1977)は、フランスが舞台であり、英語で会話がなされる物語。執拗な決闘の印象は今でも覚えている。

また、『グラディエーター』(2000)、『1492 コロンブス』(1992)の歴史映画への回帰。『ブレードランナー』(1982)みたいな人類への憐れみの視線。『テルマ&ルイーズ』(1991)のフェミニンな視線と芳香。

後から反芻するに連れて、傑作だと思えて来る。

ラストの決闘シーンは映画史に残るであろう見事さ。

決闘や死刑を楽しむ、王の姿も庶民もその愚かさについては同じであり、古代ローマの時代から現代まで、そして未来に於いても。

死体から建設中の大聖堂まで映し出す、映像のダイナミズムと、その人類への俯瞰の高さと、人間への憐憫の情は、いかにもリドリー・スコットらしい個性。彼にしか撮れない。

そして、王と神を混在して思考する、キリスト教の世界観(王権神授説)を見事に捉えていて、仏教的世界観で締め括られる『羅生門』と、やはり呼応している。細雪と豪雨の音。

【後で、若干、推敲致します(^o^)】