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最後の決闘裁判のエーコのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.4
ロケーションと背景美術は凄いとしか言いようがないが、そういった視覚的意匠の存在しない芝居の場面ではかなり淡白な撮り方をしているので、正直なところ流血沙汰がない場面では眠気を堪えるのが大変だった。リドスコの歴史物っていつもそんな印象だけど。

脚本は三視点から反復されるため省略がかなり多く、近時のハリウッド映画からすればハイスピードな語り口だ。

最も面白いのはル・グリの章で、なぜならル・グリが三人の中で一番多面的で、シーンが切り替わるたびに印象が変わるような人物だからだ。冷血に地代を取り立てたかと思えば、カルージュを誰よりも庇い立て、本を読む知識人の側面を見せたかと思えば、ピエールとの乱行に励む。

そのため加害者であるル・グリとカルージュのキャラクターを単純化するマルグリットの章が最も退屈に感じられた。

また、そもそもリドスコの淡白な撮り方ではル・グリの多面性を活かし切れておらず、ル・グリがマルグリットに惚れ込む理由は(本人の章でさえ)全くわからない。事実を明け透けに映すだけではなく、心理の可視化をもっと力を注いでほしい。

フェミニズムに限らず、思想やイデオロギーというものを小説や映画で扱う上での難しさは、結論を固定することによって様々な起伏を無くしてしまう点だと考える。理論から細部が逆算して決まっていき、またその細部から理論が先読みできるような制作は面白くないだろう? 違うだろうか。
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