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LAMB/ラムのLzのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.6
悍ましく、奇妙で、虚ろ。
あの出来事を神の恵みと言うのか、はたまた神の罠と恐れるべきか。いずれにせよ、人間が手を出していい領域では無かったのは確か。
ほぼ同じ構図が繰り返し使われていて、まるで定点でこちらが傍観していたかの様な感覚にさせられる。その傍観でさえ、罪だと言われるように。
手を汚してまで満たしたかった欲…それが正しいか否か、真実の愛を伴うか否か、多分、どちらにせよ、関係なかったのだと思う。どう転がるかなんて彼らには重要ではなくて、そこに罪悪はなかった。それはある種究極的に無垢で、果てしなく不純でもある。

ひたすらに不穏で、誘われるように時間が流れ、静かな地獄が訪れるのを見守ってると身が強張る思いだった。
静謐な空気の中淡々と生活が描かれ、じわじわと何かに侵食されていく演出はとても好き。
リアルな生活風景の中に夢想的な要素が入った時に描かれる、現実と非現実の狭間の世界が見れただけで大満足だった。

キャストも全員が素晴らしい演技だった。人里離れた場所で閉鎖的に暮らす人間の、乾いたような、悟ったような雰囲気を見事に纏っていた。マリア役のノオミ・ラパスの、力強く、時に虚ろな表情や視線がとても印象的だった。叫ぶ姿と声は、一度観たら忘れられない。素晴らしいハマり役だったと思う。
途中から第三者が介入したことで、傍観者であるこちら側の感情も露わにされていく感覚があったのも良かった。自分がどちら側の感覚に共鳴するのか、嫌でも実感させられた。

イングヴァルが最後に引いたアダの手が、羊の蹄側だったのが印象的だった。人間ではないことを無視して、奪ってでも自分たちの子どもとして可愛がった子どもの、最後に触れた手は、羊の蹄であった皮肉。
はなから結末は決まっていたのかもしれない、と脱力感に襲われ、その後にマリアが画面を越えてこちらを見つめてくる視線から目を逸らしたくなった。

エンドロールでヘンデルのサラバンドが流れたのも、鑑賞後の心境にまさに合っていた。余韻に浸るには最適な選曲で素晴らしかったと思う。
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