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スワンソングのkassyのレビュー・感想・評価

スワンソング(2021年製作の映画)
3.9
試写会にて
アフタートーク:トッド・スティーブンス監督


トッド・スティーブンス監督の故郷サンダンスキーに実在したヘアメイクアーティスト、パットを映画化。

トッド・スティーブンス監督によると、サンダンスキーはごく普通のノーマルな街。そんな中でノーマルではないパットは同じくノーマルではない監督にとって光輝いた存在だったそうだ。

街の女性達を綺麗にして、ゲイバーではステージに立ち。華やかだったパットだが、現在は老いてホーム暮らし。そんな彼の元へ街のマドンナであり金持ちの彼の親友だったリタの死化粧の依頼が舞い込む。

パットがリタの元へ行く道中はさながらロードムービーのよう。
街の人々との交流をしながら、彼の過去の栄光と確執がだんだんと明らかになっていく。

ヘアメイクの仕事から離れていた間に変わる文化、移りゆく街、そんな時間の経過に哀愁が漂うが、その時間の経過によってゲイをとりまく環境と文化もまた大きく移り変わったことが描かれている。

愛する人を失い、何もかも取り上げられたパット。そんなパットに「今だったらそんな事にはならないのに…」と語りかける人がいたり、男性2人で子育てをする夫婦を「こんな時代が来るなんて…」と憧憬の眼差しで見つめるパット。
ゲイを取り巻く世間も少しずつ良くなり、変化しているのだと勇気づけられる。

リタの死化粧の仕事を通して誇りを取り戻したパットの生き様は美しい。
ラストシークエンスではゲイの私は何も残せないと感じていたパットに、決してそんなことはないのだよと強いメッセージに心温まる。
くすりと笑えてほろりとさせ、色んなことをひっくるめた度量の大きい作品だなと感じた。

監督によるパットへのラブレター、そしてクィアの人々へのラブレター的作品。沢山救われる人がいるのではないだろうか。

個人的に好きなシーンはパットが墓参りするシーン。彼の愛情の深さが沢山感じられる素敵なシーンだった。


アフタートークメモ
(ややネタバレあり)

監督が映画を撮るのは11年ぶり。
オハイオ3部作だが、あと一つ1作目を撮る時の苦労話を映画化しても良いと思っている。
11年ぶりという事もあり、自分に映画が撮れるか自信がなかったが、そんな老いゆく自分も重ねてパットの晩年を本作では描いた。

監督のデビュー作では相応しい人が見つからず、パットのシーンはカットされた。

パットのキャスティングは難航した。
怖い悪役の人?と思っていたが、自宅に会いに行ったら猫ちゃんが出てきて、「ライザ・ミネリちゃんよ〜」と言われてぴったりだ!と思った。

パットとウド・キアーの共通点
ブルーアイであること、クィアであること

リンダ・エヴァンスは25年ほど女優を引退していたが脚本を読んで快く引き受けてくれた。彼女の登場シーンは最終日に1日で撮った。

ジェニファー・クーリッジはゲイコミュニティにとっては非常にパワーのある人。
低予算映画のため、最初はマネージャーが脚本を渡してくれなかったが、撮影1ヶ月前くらいにようやく渡してくれて引き受けてくれた。アドリブが多くて、自分の脚本をもっと良い方にアレンジしてくれた。
「あなた、スポーティーね」のセリフは彼女が考えた。

音楽は実の弟が担当。

パットがナプキンを折り続けるのはご本人の癖。お姉さんが教えてくれた。何故折るのかはわからないが、おそらくヘアメイクの仕事でずっと手を動かしていたので、ホームでの生活の時間を埋める心を落ち着かせる作業だったのかもしれない。
スタッフは沢山折るのに苦労した。

パットがシャンデリアを被ったのは、彼が無類のシャンデリア好きだったことから。自宅には沢山のシャンデリアがあったらしい。
実はスタッフにはあのシーンはカットした方が良いと言われたがカットしなかった。今ではみんなお気に入りで、シャンデリアのタトゥーを入れたスタッフもいた。

映画で登場するゲイバーは監督が17歳の時に初めて行った経験のある場所。勇気を出して行って、仲間が沢山いる事に勇気づけられた。バーのシーンでは実際の経営者なんかも出演している。

とってもキュートでサービス精神の旺盛な監督でした。
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