りょう

笑いのカイブツのりょうのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
3.6
 いわゆる“お笑い”にはほとんど興味がないので、実在するツチヤタカユキさんのこともわかりませんが、この作品の彼の特徴は、自閉スペクトラム症やパーソナリティ障がいを患っていそうでした。“お笑い”への異常な固執と驚異的な想像力は、よくも悪くも彼の特性です。
 彼の“生きづらさ”が痛切に描かれていますが、それを放置している周囲の人々がよくないです。とりわけ母親が優しくて寛容な雰囲気ですが、息子の特性に気付いているのに、医療につなげようとしない姿勢は逃避でしかありません。
 彼は「人間関係不得意」と自覚していますが、もともと“お笑い”って、人間関係やコミュニケーションから発生する感情や事象を誇張して演芸に昇華させたものだと思います。その本質や核心を理解することが「不得意」で、さまざまな人間関係を経験していないのであれば、ネタも表面的で空虚なものだったのかもしれません。
 そもそも「人間関係得意」な人間なんて、ほとんどいないと思います。誰もが「不得意」ながら社会に適応するために努力しているだけです。それは自己実現するためだったり、社会に貢献するためだったり、さまざまな理由がありますが、「誰かがつくった世間の常識」に抗って、自分の価値感で「正しい世界」を想像したり、そこでうまくいかないことを呪ったりするのは、“ちょっと違う”と思います。
 これは作品そのものの悪口ではなく、そんなことを思考させるような表現に優れた映画だったという感想です。岡山天音さんがツチヤの特性をブレずに演じているところには凄みを感じました。精神面で実生活に影響しなかったのか心配になるほどです。彼は脇役で活躍していて、顔立ちに“華”がある俳優さんではありませんが、主役級の仲野太賀さんと菅田将暉さんの出演で作品としてのバランスは維持されていた印象です。
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