鹿苑寺と慈照寺

THE FIRST SLAM DUNKの鹿苑寺と慈照寺のレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.7
【オレは今なんだよ!!】

これまで『SLAM DUNK』に触れる機会がなく、バスケにも興味が沸かなくてスルーしていたけど、YouTubeで見た原作の数々の名言が自分に刺さって、原作を全巻読破した。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」や「安西先生、バスケがしたいです」は『SLAM DUNK』を知らなくてもあまりにも有名な台詞。そんな中、原作を読んでいて、僕の胸に響いたのは「おうオレは三井。あきらめの悪い男」と「オレは今なんだよ」の台詞だった。

バスケを辞め、不良になった元天才シューター三井がそれでも頭の片隅からはずっとバスケのことが離れなくてバスケ部に戻ってくる。2年のブランクがある三井はスタミナが著しく落ちていて、試合終盤でバテてしまう。そんな三井がチームメイトのことを信頼しきってひたすらにリングだけを見てスリーポイントシュートを放つ。まあこんなもんかなあと諦めてしまう、あるいは何かを目指さなくなりそうな自分に対して言われているような気がした。
同じく不良だった桜木は赤木晴子に勧誘され、バスケ部に入部する。赤木晴子に好かれるため、ミーハーな気持ちで始めたバスケに少しずつ魅了される桜木。そんな桜木から飛び出す「オレは今なんだよ」の言葉。何となく惰性で日常を過ごしてしまいそうになる自分に喝を入れる言葉になった。

本作は原作の終盤で描かれたインターハイ2回戦の湘北高校と山王工業との死闘を、2時間かけて描く。原作では過去が描かれなかった宮城リョータを主人公に据えるという大胆な設定変更をしている。

原作でも大ボリュームで描かれた山王戦が、アニメーションの躍動感と臨場感で再現されていて、興奮がラストまで続く。本当に密度が濃い。本当のバスケの試合を見ているかのような臨場感、原作の画がアニメーションになっている感動は凄まじかった。

オープニングから引き込まれた。The Birthdayの楽曲に乗せて鉛筆のタッチで湘北メンバーが1人ずつ描かれ、実際に動き出す。対して階段から降りてくる王者・山王のメンバー。こんなのテンションが上がるに決まっている。完全に心を鷲掴みにされた。

上述したように僕は原作を読んでいて、桜木と三井の言動に刺激を受けた。本作でもスタミナが限界の中、リングだけを見てスリーポイントシュートを決める三井の姿、安西先生の「君はリングに向かってダッシュだ」を愚直に守り、最後までコート上を走り抜けた桜木の姿に号泣してしまった。

本作で特筆すべきは、試合終了まで残り20秒の演出。無音の中、試合のスピード感を重視した圧倒的映像。素晴らしい。原作を読んでいたらより感情移入するだろう、桜木と流川の関係性が濃密に描かれた20秒。本当に素晴らしかった。

原作を読んでいるときは感じなかったが、本作を鑑賞して思ったのは桜木の「オレは今なんだよ!!」の台詞。これは当然、桜木自身にとってもそうだけれど、流川、三井、宮城、赤木、全員に言えることだし、観ている人たちに対しての今やらないと駄目なんだ、本気で生きないといけないというメッセージをより強く感じた。

原作になかった宮城リョータの過去を描いている点もとても良かった。特に宮城の母親の回想シーンからの宮城がドリブルでなんとか抜き去るのだけれど、母親の「行け!行け!」で泣いた。宮城がバスケット選手としては体格に恵まれないからこそ努力でカバーし、常に優秀な兄と比べられ、それでも兄のような選手を目指し続けるという姿が今の時代にとてもマッチしていたと思う。

以下は個人的なメモ
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お父さん、亡くなってるのか。

湘北メンバーが1人ひとり手書きのタッチでが書かれて動き出すオープニングが素晴らしいし、対する山王メンバーが階段から降りてくるのも王者感が最高。

兄と比べられるリョータ

「ここは君の舞台ですよ」

「君はリングに向かってダッシュだ」を最後まで愚直に守り続ける桜木

ラスト20秒の緊張感

最後まで走り抜いた桜木

漫画的タッチでそのまま映画になっていて、しかも本当のバスケの試合を観戦しているような感覚。

ギャグ描写を抑えているのが映画的にめちゃくちゃ成功してる。

残念だったところ
・三井が復帰する経緯がそこまで詳しく描かれなかったところ

難点
回想シーンが何度も挟み込まれるから試合に乗り切れない部分がある。
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