鹿苑寺と慈照寺

オッペンハイマーの鹿苑寺と慈照寺のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
視覚的にも精神的にも複雑な映画だった。

■視覚的な面
登場人物の多さ、時系列やカラー画とモノクロ画の切り替え、政治的策略。
これらが複雑に絡まり合って本作は構成されているので、とにかく複雑。
ただ、これらの問題はオッペンハイマーの人物像や当時の政治情勢を少しでも予習しておくとある程度は解消される。
僕は本作の原案になったカイ・バード&マーティン・J・シャーウィンのノンフィクション『オッペンハイマー 上 異才』を読みましたが(中巻と下巻は挫折してしまいました)、オッペンハイマーの人となりを知る上で参考になった。また、第二次世界大戦前の原爆開発にまつわるドキュメンタリー「アインシュタインと原爆」は当時の世界情勢を知る上でとても参考になったのでおすすめ。

■精神的な面
日本人にとって原爆というのは切っても切り離せないもの。 それがゆえに原爆実験とその後の投下に至る流れは精神的にかなりきつい。後述するが、当時の世界情勢的には仕方ないのだろうけれど、とあるシーンで心が痛くなった。

さて、本作の話。3時間の長尺の作品ながら劇伴と音響、圧倒的な画作りで没頭できる映画になっている。画の力強さで押してくるし、オッペンハイマーという人物を描く覚悟が感じられた。

トリニティ実験成功後の歓喜の様子には被爆国として心が痛いし、かなり精神的にダメージを負わされる。オッペンハイマーがロスアラモスにて科学者や住民の前で演説する際に人々の歓声とオーバーラップするように原爆投下時の閃光、爆発音、地響き、焼け爛れた死体などの被曝のイメージが重なる。オッペンハイマーの歓声に応える笑みが徐々に歪んでいく演出がとてつもなく良かった。被爆地などの写真が出ないにしてもこれ以上ないくらいに反戦反核のメッセージが伝わってくるものだったし、ラストカットの恐怖も鮮烈だった。

以下は個人的なメモ
-----
反戦反核のメッセージ

後半のオッペンハイマーにまつわる政治的ストーリーは登場人物や当時の時代背景を把握していないと理解するのはかなり難しい。

3時間ずっと劇伴と画力で押してくる。

ドイツが負けても日本がある。原爆開発に取り憑かれているように見えた。
-----