回想シーンでご飯3杯いける

THE FIRST SLAM DUNKの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.8
原作を思わせる手書きのデッサンが動き出す。ベース、ドラム、ギター、と楽器の音が加わる毎にチームのメンバーが増え、5人揃った所で色が加わる。原作者である井上雄彦が自ら監督と脚本を手掛ける「SLAM DUNK」の映像化作品であるという事を的確に表現するオープニングが素晴らしい。

僕はスポーツもやらないし、「SLAM DUNK」どころか漫画さえ殆ど読まない人間だが、それでも作品の世界に引き込まれ、2時間があっという間に過ぎていく。こんな経験は久しぶりである。

漫画やテレビアニメの劇場作品では、おうおうにしてダイジェスト的な構成になったり、大事なエピソードが抜けてしまったりするものだが、本作はそもそもの発想が違っていて、劇場単独作品として際立ちそうなポイントを敢えて1点に絞り込み、登場人物の背景でさえ、劇中の回想シーンで手短にカットインするのみという、かなり潔い手法が採られている。その緩急使い分けたリズムが、バスケットボールの試合を疑似体験するようなグルーヴを作り出していく。

本作の主人公として描かれる宮城リョータは、原作ではさほど目立たない脇役なのだという事を鑑賞後に知り、更に唸ってしまう。原作やテレビアニメで獲得した評価からも距離を取り、「SLAM DUNK」にとって大切な部分は何なのか?を作者自身が問い正しだしているようにも思える。

原作を持つ劇場版アニメはファンサービス的な内容になりがちであるが、Filmarksに集まるレビューを見る限り、本作はそれに当てはまらないようだ。むしろ僕のように「SLAM DUNK」を知らない観客の方が楽しんでいるようにさえ見える。