ノラネコの呑んで観るシネマ

余命10年のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
4.8
これは素晴らしいな。
真っ直ぐに“生きること”に向き合った映画。
二十歳で不治の病にかかり、余命10年を宣告された小松菜奈演じる茉莉が、同窓会で再会した坂口健太郎と人生最後の恋をする。
主人公のアニオタ設定は無くなり、彼の仕事とかも色々脚色で変わってるのだが、これは亡くなった原作者の小坂流加さんの人生と、物語を重ね合わせるためだろう。
映画の茉莉は、同人漫画ではなく小説を書いているのだ。
軸となるのは坂口健太郎との切ない恋だが、家族や友達との関係、打ち込んでいる小説へ託した想いなど、彼女の過した10年の全てを描く。
恋の要素は重要だが全てではなく、描くのは彼女の命の証だ。
象徴的に使われているのが、茉莉が常に持ち歩いているビデオカメラだ。
時を閉じ込めるビデオは、10年間の思い出そのもの。
過剰な泣かせは避けられているが、終盤に彼女がとるある行動には、思わず涙腺が決壊。
藤井監督の作品らしく、役者が皆いい。
出ずっぱりで茉莉を演じる小松菜奈は、キャリアベストの好演。
日本映画には珍しい献辞も含めて、原作と原作者への深いリスペクトを感じさせる。
病の当事者が命を削って紡いだ物語は、深みが全然違う。
傑作です。
ブログ記事:
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