しの

余命10年のしののレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
3.2
余命モノか……と思って観た自分でも、前半は素晴らしいと思った。まず家族との会話、友人との再会、同窓会の感じとか、全体的に描写がリアル(返事に窮して言葉が詰まったまま、みたいな場面も多々ある)のが嬉しかった。悲壮感を無闇に煽らず、恋愛要素も全く浮ついていない。

前半のピークを迎えるのが、想いが成就してからのダイジェストシークエンスで、あそこは素直に良い。真部の「側から見たらつまらない人生でも……」は告白にというより彼の人生観にグッときたし、仲を深めていくシーンも恋愛描写というより人生の描写として豊かだ。数秒の画が超リッチだし。

ただ、この前半の時点で雲行きが怪しい部分はある。余命のことを彼に伝えられない心理は分かるのだが、あんな健気な真部くんに対して最後の最後までその真相を引っ張るのはどうかと思うし、そのせいで後半の大部分を未練っぽさが支配していて、「頑張ったね」という前向きな一言に接続しない。

この引っ張りのせいで、「余命を受け入れて精一杯生きる」というベクトルには必然的に向かわなくなる。後半の早い段階で2人は別々になってしまい、茉莉は真部の自立を見ることがなく、文字に「遺す」ことに注力してしまう。しかもその内容が何とも未練たらしく見えてしまうという有り様。

しかも、遺した結果何が起こるかというと、真部に真意がようやく伝わるというだけで、結果彼は「走って向かう」展開を再びやってしまう。おいおいまたそれか……と。ここは2人の関係を断ち切ってまで多数の誰かに「届ける」ことを選んだ意義を描いてほしい。この見せ方では、なおさら最初から伝えておけと思ってしまう。

加えて、ビデオカメラに対するあの行為や、病床で浮かべるダイジェストイメージなど、ここまでくると単なるダメ押しどころか前半で感じた生の力強さすら帳消しにされていくようで、テンションが下がった。生への希求は母親とのシーン一発で十分伝わると思うが……。

とはいえ、その肝心なシーンも過剰ではあると思う。このシーンに限らず、全体的に四季を絡めつつ、数秒のシーンでも丁寧にリッチに撮られた感じは伝わってくるし、題材のわりに全体的に抑制が効いているのは好印象なのだが、それでも肝心なところで「顔のドアップ&涙ボロボロ」みたいな画が連発する。しかもそこにピアノを必ず被せてくるので、あらら……となった。

何より、ラストシーンのスローモーションが全く琴線に触れない。果たして、あの感傷はこの作品の締めに相応しいのだろうか。自分はやはり中盤のモンタージュに人生の豊かさや煌めきを感じたので、生への執着というよりは単に未練がましくなる後半には全くノれず。もはや後半を丸ごとカットしてほしいくらいだった。
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