耶馬英彦

イノセンツの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.0
 ホラー映画としては異色の作品だ。監督・脚本のエスキル・フォクトは映画「私は最悪」の脚本と製作総指揮を担当しているくらいだから、ホラー作品であるだけでなく、社会のありようについて疑問を投げかけた作品でもあると思う。

 自閉症スペクトラムは症状が人それぞれだから、一概に家族の悩みはこうだと言えない。自閉症の本人が必ずしも不幸だとは限らないし、それにサバン症候群などで、特異な能力を発揮する場合もあって、社会に適応して経済的に自立できる場合もある。ただ本作品のアンは難しそうだ。
 顔にハタケが出来る子供は、日本では昭和の高度成長期ぐらいまではいたと思うが、最近は見かけない。住居の衛生環境が改善されたからか、子供の顔が白くなったからだろうか。黒人の子供だと目立つから、差別されることもあるだろう。まして女の子だと、親の心配は計り知れない。アイシャが優しい子供に育ったことが救いだが、その優しさのために追い詰められる。
 インドやパキスタン、中東などからノルウェーに移民として流れ着く場合もある。同年代の子供との交流もなく、親が家父長主義だと、想像力に欠けた酷薄な子供に育つこともあるだろう。

 それぞれ問題を抱えた子供たちだが、孤独を抱えている分、互いの交流に喜びを見出す。しかしそれも束の間、親しんでいくうちに本音が漏出し、感情的になってしまう。
 親は結局、自分たちの考えでしか子供に接しない。子供たちにもそれが分かっているから、何もかもを親に話すことをしない。大丈夫でなくても大丈夫と言う。子供たちは再び元の孤独に戻っていく。恐ろしくも不気味で切ない物語だ。

 エンドロールが下から上に流れるのをはじめて見た。時間が巻き戻っているみたいで、不気味さが蘇ってくるようだった。
耶馬英彦

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