SANKOU

海炭市叙景のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

海炭市叙景(2010年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

冬の函館という舞台がもうどことなく寂しさを感じさせる。人生に行き詰まってしまったもの、心に傷を負ったもの、心が荒んでしまったもの、今日を生きていくだけで精一杯のもの、鉛色の空の下で生きている彼ら一人一人の物語。
オムニバスでありながら、それぞれの物語はどこかでつながっている。
造船ドックの閉鎖によりリストラにあった颯太と帆波の兄妹は、元日の日の出を見ようと山に登るが、帰りのロープウェイ代が足りずに颯太だけが歩いて山を降りる。
街の開発のために立ち退きを迫られているトキは、自分が生まれた場所を決して離れはしない。ある日彼女が可愛がっているでっぷり太った猫が姿を消す。
プラネタリウムで働く隆三の妻は、彼が望まない水商売の仕事の為に着飾って出掛けていく。息子は父とは口も聞かない。ある日妻の帰りを待ちわびた男は、彼女を連れ戻すために動き出す。
父の代から受け継いだガス会社の社長春夫は新規事業の浄水器取り付けを扱うがうまくいかない。彼の不倫に気付き連れ子に辛くあたる妻、それに暴力で応酬する春夫。作業中に指を潰してしまった彼は、子供を実家に預けることを決意する。
浄水器の営業で東京から来た博は函館にいる父親との接触を避けている。ある夜に入ったバーで、酔っ払いがホステスにつっかかるも逆に閉め出されてしまう姿を目撃する。
彼らの日常は、もちろんこの映画で描かれている一瞬だけでなく、それ以前にも以後にもあり、それぞれのエピソードが完結しているわけでなく、何かの問いかけを残したまま終わっていく。
それが後に、残酷な形であったり、希望を残す形であったりと、思いもよらない形で突如描かれる。
描かれなかった空白の時間を想像させるように、市電はゆっくりと街中を走り、函館の港から船は波に揺られながら出港する。
街の風景のちょっとした描写や、人間描写が巧みで、残酷で暗い人生において、それでも生きていかなければならない人達の哀しみとおかしみが上手く伝わってくる作品だったと思う。
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