Monami

ある男のMonamiのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.8
日本アカデミー賞で話題となっていたので予備知識なしで鑑賞。

映像美が全体的にどこか色褪せていて、BGMも流れる時間もゆっくりで不穏。
ホラー的不穏さではなく、どことなく暗い気持ちになるような見えない闇に吸い込まれていくような重たい空気感。

私と家族が愛した、優しかった夫は一体誰なのか。なぜ別人になりすます必要があったのか。

人が嘘をつくのには必ず理由がある。
秘密を作らなければならない元凶がある。

夫の正体、夫の生い立ち、ルーツ、
少しずつ明るみになっていくうちに
人は、目に見えてるものだけで判断してしまいがちな浅はかさや無能さ。

レッテルやブランド力がものを言ってしまう
本質を見落とし見極める判断力が欠けてしまう現代。

妻(安藤サクラ)から依頼を受けた城戸(妻夫木聡)は、
夫(窪田正孝)の隠したかった真実に、守りたかった秘密に、
迫れば迫るほど自分自身と自分自身の取り巻く環境と重なる部分があるような気がして
ヒントを得たような気がして真相を突き止めた後も翻弄する。

ラストの展開はまさにミイラ取りがミイラになったような結末。ある意味悲劇。

安藤サクラの哀愁漂う演技と
刑務所での面会シーンでしか登場しない柄本明の圧倒的演技力、存在感。
そして優しさの中に闇を抱えて懸命に今の幸せを壊したくないと願った窪田正孝の寂しげな背中。

弁護士というお堅い仕事、自分の強み、武器。その自信と笑顔の裏に隠された心の闇や見えない葛藤を見事に演じ切った妻夫木聡。

俳優陣たちの演技力の凄さに、演技とは思えないもの凄く身近にこういうことが起きているのではないかと思わされる内容のものでした。

日本ならではの独特の重たい空気感で織り成される普遍的で重厚感のあるストーリー展開に、少し重苦しさや物足りなさを感じる方もいるかもしれない。

それでも、人は誰しもが何かしらの闇を抱え、誰かになりたいと現実から逃げたいと仮面を被って自分を取り繕ってる可能性があるのではないかと、そう思わされるような内容でした。
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