たく

観察者のたくのレビュー・感想・評価

観察者(2021年製作の映画)
3.7
若い男女のカップルが向かいのマンションを覗き始めたことをきっかけとして、自分たちの生活が狂わされていくという怖い話。使い古されたヒッチコック「裏窓」のシチュエーションを予想もつかないプロットに仕立上げてるのが斬新だけど、終盤の展開が急に非現実的になってしまいちょっと白けた。プライベートを晒すことの危険さというのがいかにも現代的な題材。シドニー・スウィーニーの年齢不詳な魅力が全開してて、身体を晒した大胆さも含めて彼女のファンは必見。ベン・ハーディーはついこの間「カレとカノジョの確率」を観たばかりで、こういうマッチョなイケメン役がぴったりだね。原題”The Voyeurs”は「覗き魔たち」という意味で、邦題はかなり甘っちょろい。

目のドアップに始まるタイトルクレジットが、本作の軸となる「他人を覗く行為」を暗示してて、主人公のピッパが眼科医であることにも重ねられる。ピッパとその恋人のトーマスがマンションに引越してきて早々、向かいのマンションに住む夫婦がプライベート全開で性生活をまるで他人に見せるように暮らしてる様子に興味を引かれ、トーマスが始めた覗き行為をピッパが引き継ぎ、次第に夢中になっていく展開。この向かいの夫婦の夫がプロのカメラマンというのも「裏窓」の設定を踏襲してたね。ピッパが働く眼科で、目玉のアップから半熟卵を二つに割るカットに切り替わるのはルイス・ブニュエルの「アンダルシアの犬」を意識してると思った。これがラストの目玉焼きに繋がる演出が秀逸。

ピッパが覗きを続けてる向かいの住人のセブが妙にセクシーで、妻がありながら代わる代わる写真モデルの女性とヤリまくるというエロ要素を入れてくるのが、同じ「裏窓」オマージュであるブライアン・デ・パルマ監督の「ボディ・ダブル」を連想させる。ピッパがセブに性的魅力を感じつつも、独善的な正義感から彼の浮気を妻に知らせようとする行為が仇となり、事態が悪い方へ転んでいくのが怖い。でもこの後にピッパがセブに近づく展開となるので、深読みすれば彼の妻に浮気を知らせたのは夫と別れさせるのが目的だったとも考えられる。終盤であっと驚く種明かしがあるんだけど、ここで一気に話が作り物めいてしまってちょっと白けた。ラストでピッパの眼科医設定がちゃんと回収されるのが、悪趣味ではあるけど綺麗な幕切れだった。
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