Kuuta

さがすのKuutaのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

良いところを汲み取るようにいつも心掛けていますが、この映画に関しては真面目に見る気が失せてしまいました。普段以上に見落としが多いと思いますので、事実誤認があればご指摘下さい。

・良かったところ。冒頭の防犯カメラの使い方。「ボケツッコミ」の軽いやりとりが成立する大阪ならではの「対話」の不確かさについての映画。商店街のチェイスシーンなど、大阪の風景はどれも魅力的だった。ガラス越し、フェンス越しといった「境界」の描写多数。

・リアリズムの中にいるようで、当てもなく「探して」偶然出会う展開が繰り返される。映画なんだし全く問題ないが、意図的なのだろうか?

・ここから不満点。この映画の筋は①妻の介護に病んだ父・智が、殺人を依頼してしまう②その秘密を娘・楓が『さがす』ーこの2点に尽きる。敢えて言えば、これ以外の要素は全て装飾だ。「名無し」視点の第2部は本筋のビルドアップには繋がっていない。「最後の決闘裁判」では映画3本分の満足感を味わえたが、今作は要素が3分の1にバラけてしまっていると感じた。

①に関して、そもそもALS患者を類型化し過ぎでは、という指摘は置いておくにしても、家族を犠牲にしてまでも犯罪に走る智の精神の変調は、どれほど丁寧に描かれていただろうか。

妻との関係の描写は限定的だし、智視点の第3部で、介護中の父娘の関係がごっそり抜けているのにも首を捻ってしまう。妻と向き合うことなく殺してしまった後悔が、こびり付いたガムとして演出されるが、病む過程も後悔も暴走も記号的に感じた(妻を殺しかかって「動揺する」佐藤二朗の身振り手振りはちょっと…)。

②に関してはもっとダメで、楓の行動の根本には母の死があるのだろうが、母との関係について「トラウマっぽい」以上の描写がないから、少女漫画を読むように変化し、死の輪廻を抜け出さんとするラストに全然繋がってこない。父に眠る本質を受け入れ、最後通牒を突きつける所に最大のドラマがあるはずだが…。

→「面白いドラマ」を意識し過ぎたSNS「映え」の脚本、という嫌味な見方をしてしまう。本筋をきちんと肉付け出来ていないのに、展開の意外性と伏線の「回収」(時制が巻き戻るたびに意識が遠のく私)、現実の凄惨な事件の模倣に力点が置かれている。

動機も犯人像も異なる事件をミックスして「名無し」を作っているため、貧困や尊厳死やALSなど、一つ一つの背景をつまみ食いしているように見える。 少なくとも①②を描く上で、クーラーボックスを登場させる必然性を私は全く感じない。

→特に後半は用意された要素の消化ばかりで、キャラクターが能動的に話を動かす展開に乏しい。「探してねーじゃん、答え合わせばっかじゃん」というのが真っ先に浮かんだ感想。伊東蒼パートがもっと見たかった。

・智が「探していた」のは、罪悪感からの救済だろう。彼は妻の微笑みを幻視し、自殺志願者の女性を殺す。実際の妻は殺される瞬間、恐怖に怯えていたのを我々は知っているが、智は「彼女は笑顔で死んだ」という妄想で上塗りしながら赤の他人を殺す事で、呪縛からの解放を求める。

→あの幻視、意に反して安楽死させられた人の叫びを蔑ろにするという、私の倫理観的にアウトな描写だった。この父には明確な罰が下るべきと思っていたが、父娘の話にまとめていく展開に、お母さん放置でかわいそすぎないかと辛くなった。

・卓球問題。ラリーの長回しの緊張感(いつ社会の外に放り出され、潰されるか分からない)は、カメラが忙しなく揺れる今作では最も心躍ったが、球はCGだそう。2人はボール無しでもラリーを始めるので、あらかじめあのボールの虚構性を敢えて強調していたようにも感じる。

「玉」の受け渡しに始まった映画が、ボールの往来の危うさを示して終わる事に納得感はある。一方で、私は先述した智の「幻視」に強い違和感を持っていたので、罪の重さと、幻が消えるという代償は釣り合いが取れていないとも感じた。

・行政や警察を無能に描く事で話を動かす映画を私は信用出来ない。確実に全国の警察がピリピリしている逃亡中の殺人犯に関し、あれだけ具体的な情報提供があったにも関わらず、適当に処理する西成署。善意の押し付けを「演じている」ようにしか見えないシスターの場面、普段はこういう事するタイプじゃないんですが、映画館で露骨にため息をついてしまいました。
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