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さがすのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「岬の兄妹」もそうだったが、片山慎三監督は、とても重くて嫌な気持ちになるのに心を強く動かす作品を撮る。今作も観終わった後、しばらく引きずってしまい何も手につかなかった。

"自殺幇助"というのがそもそも軽くはない題材ではあるのだが、この映画で描かれる2つの自殺幇助のうち、特に1件目であるALSの妻の件が本当にしんどかった。こちらはどちらかというと"安楽死"の問題というべきかもしれない。病気で日に日に自分の身体が動かなくなっていく。介護されないと生きていけず、家族に負担をかけ、常に"感謝"しなければならない。「死にたい」「殺してくれ」と懇願する妻の首に手をかけるものの結局どうしても殺し切ることができない夫のシーンが心底泣きそうなくらい辛かった。

からの山内による自殺幇助。妻に最後の別れを告げて部屋を出ていく夫にやりきれない気持ちでいっぱいになったところで、この映画は非常に残酷な展開を見せる。なんと殺される直前、妻は怯えて嫌がっているような素振りを見せるのだ。そうして彼女の手からこぼれ落ちた思い出の卓球のボールを無関心に踏み潰した山内は、夫・原田に「彼女は最後に笑っていた」「だから罪の意識を感じる必要はない」と告げるのだ。ああ怖い。なんて怖くて嫌な気持ちになるのだろうか。

もう一人の少女、ムクドリの件ももちろんしんどい。車椅子の彼女の世話を甲斐甲斐しく焼く原田に、彼女はかなりキツくあたる。ところが中盤、ムクドリに上着を着せる原田が妻の介護を思い出して泣き震え出すと、ムクドリは「お父さんと同じ匂い」と言いそっと原田を抱き寄せるのだ。最終的に山内にきちんと殺してもらえなかった彼女は、原田に殺してくれと懇願する。原田はそこに妻の面影を重ね、ムクドリを絞め殺すのだ。もう心底しんどくて嫌な気持ち。ムクドリの事情は一切描かないし語らせない。けれど、これらの僅かなシーンからだけでも彼女の感情が薄っすらと感じ取られ、だからこそとても辛い。そうしてムクドリを殺したことで彼女から大金を得たと思った原田が、大切に隠していた封筒の中身を見るとたったの6万円しか入っていなかったという展開もとても嫌な気持ちになる。

この映画のメインはおそらく原田とその娘・楓であり、この二人の関係性も不器用で美しく、観ているだけで泣けてきてしまう。この父娘、一見地味で大人しそうなのに、何かあるとものすごいパワフルでとんでもない行動力を見せるところがそっくり。二人とも非常にしたたかであり、この辺りも共感しやすいポイント。ただ、楓に惚れている同級生など、もうちょっとカットしても良いかなと思える描写もいくつかあった。あいつ、空気は読まないし下心丸出しだし、楓のことをちゃんと想っていない感じがとても嫌だった(もちろん彼女はその上で彼を利用しているのだが)。あとラスト、楓がいつの間にか真相にたどり着いていて父親を追い詰めるのも、ちょっと感情がついていかなかった。ただしあの卓球のラリーのシーンは最高だし、「私の勝ちだね」も最高に泣けた。

原田の娘を演じた伊東蒼が素晴らしかった。しょうもない父親を心から大切に思っていることが、台詞自体ではなくその言い方や表情から痛いくらい伝わってくる。原田を演じた佐藤二朗も完璧。こんなに良い役者なのに、福田雄一コメディのイメージが強すぎるのは勿体無いなぁと思った。それでも本作ではしっかりとその色を削ぎ落としており、佐藤二朗本人は勿論のこと、監督の手腕が素晴らしいと思った。サイコパス山内を演じた清水尋也も悪くない。演技というより、あの独得の風貌がもたらす説得力のおかげかも。この三人を絶妙に配置したポスターの構図がすごい。

あとみかん農家のおじさんの家のAVシアターは普通に笑った。ああいうシーンを急に差し込んでくるのが片山監督の上手さ。時系列や視点の切り替えも複雑ながら非常にわかりやすく、映画としてのサスペンス性を高めている。

ただ妻の死はどう見ても殺人なのに自殺として処理されているなど、この映画、全体的に事件の扱いが不自然だったのがちょっと気になってしまった。最後の事件も普通に処理されるのおかしいよね(まぁ結局娘の通報により原田は捕まるわけだが)。

大好きな作品だが、しんどくてしばらくもう一回は観返せないかも。
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