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雪の峰のSPNminacoのレビュー・感想・評価

雪の峰(2021年製作の映画)
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息子が恋人と雪山で遭難したと知らされるジャヌ。最初から息子はマクガフィンで、父親自身の自己救済映画だった。
現地の捜索隊に自分も行く!と言い張るジャヌ。非常時につい暴走してしまう親心というより、もともとそういう男である。捜索隊を呆れさせ、現妻を不安にさせ前妻も不信を露わにするような、傲慢で強引なおっさん。遭難事故の原因の多くは「人の話に耳を貸さないこと」だと言われるが、まさにそういうとこだよ…。
所詮人の力など自然に敵わないし、母親たちが霊感にすがったり祈るのもまた人の非力さを受け入れてるからだ。だが、金と権力で人を懐柔してきた彼はそれを否定する。独自に軍を出動させても一向に息子の消息は掴めず、更に強引さを増し他人を危険に晒しながら孤立してゆくジャヌ。彼自身の状況が、吹雪の中で位置を見失い遭難するのと一緒。但し、自分を救助できるのは自分だけなのだ。
どんなに力を振りかざしても、聳え立つ雪山を前にジャヌの存在は脆く弱々しくちっぽけで、次第に自分の無力さを知ることになる。金と力を独占する、しかもそれを当然としてエゴだとも気付かないマチズモな男がより大きな抗えない力に屈していく。やがて同情を受け入れ、初めて他人の「声」に耳を傾けた彼にようやく訪れる救済。
利己的な親の迷惑ぶりは、同じくルーマニア映画『私の、息子』と似てる。でもジャヌはどこぞの政治家とかその仲間に散々見てきてるタイプで、その末路を比喩した教訓的寓話と思われた。そこが一層苦々しい(実際にはそう改心しないものだ)。切り立った雪山は美しいけど。
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