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パワー・オブ・ザ・ドッグのなごhobbyのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
3.8
 以前から見たいと思っていた映画が溜まってきたので、少しずつ消化している最近。この作品もそのうちの一本でした。

 1920年代半ばのモンタナ州。聡明ながら粗野で威圧的なフィルは、地味で繊細な弟・ジョージと2人で牧場を経営し、平穏な日々を送っていた。しばらくして、ジョージが未亡人の女性と結婚し、その息子ピーターと共に生活するが、少しずつ兄弟関係にも変化が起き始めて…

 率直に、とても文学的で、解釈が難しい作品だと感じた。この作品は、前半部分でフィルという人物を見ている人に理解させ、後半の衝撃の展開を印象づけている。
 結論から言うと、フィルはホモセクシャルなのだろうが、時代背景もあり、彼は粗野で威圧的な性格で、カウボーイという男性的な集団の中に身を投じている。なお、その生活は彼にとって、狂信的に愛していた今は亡き、ブランコ・ヘンリーから与えられていたもので、彼自身のアイデンティティだったのかもしれない。しかし、そこに女性であるローズが入り込み、彼は執拗にまで嫌悪する。そして、その息子であるピーターはフィルとは対照的に女性のような白い肌で華奢な体を持って女性らしい風貌である。このように前半部分で、いくつもの対比的な描き方を用いて、フィルという人物像を強調しているように感じた。
 後半の展開で、アクセントとなるのはピータの存在である。冒頭の「父親を亡くし、母親を守るのは自分の役目」、そして途中で語られるピーターの父の言葉である「人生における障害物は取り除け」というのが見終わった後に絶妙な伏線回収だったなと感心した。その他にも、ピーターが父親の影響で医学的な知識があり、ウサギの解剖を行うシーンや牛の去勢を手袋をせずに行うといった何気ないワンシーンが後半にかけて効いてるのも、とても上手い演出だなと感じた。
 また、人物以外を映すカットも物語の余白のような描写でありながら、登場人物の感情やこれからの展開を暗示させるもので、小説を読んでいるかのようなそんな感覚になった。

 文学的な表現が用いられる作品はなかなか触れたことがなかったが、自分の中で映像の表現を解釈するのも面白いなと感じた。
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