しょうた

あのことのしょうたのレビュー・感想・評価

あのこと(2021年製作の映画)
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受精すれば妊娠する。人間は生物学的存在であり、同時に意志を持った自分の人生の主人公である。そこに時代や社会、法律などの規制も介在する。そうした相克を引き受け、自分の意志でサバイバルしようとする若い女性の等身大のドラマ。
監督はアンヌ役のアナマリア・バルトロメイに「戦場の兵士」の例えを繰り返したと解説で読んだ時、さもありなんと思った。「エイリアン」のシガニー・ウィーバーすら連想させられる。
実に見応えがあった。

(以下、ネタバレあるかも)
アンヌの妊娠を知った女学生トリオの二人の反応の違い。おとなしいタイプの彼女が、自分も初体験をした、妊娠しなかったのはたまたま、とわざわざ話しに来るシーンは特に好きだった。
また、労働者の母との気持ちの行き違いを経て、アンヌが母をハグするところも好きだ。妊娠しながら、自分を産んでくれた母への思いも募っていたのだろうと想像させられる。

そんな風に、アンヌを取り巻く一人ひとりの在り方や関係性が丁寧に描かれていて、とてもリアルな世界が展開されていると感じた。優れた映画的な表現力、実に見応えのある映画だった。

男の一人として、特に子の父親である学生の他人ごと感は情けなかった。自分の将来を最優先している点ではアンヌと同じなのかもしれないが。

アンヌが墮胎した後で臍の緒を自分で切れなかったのはなぜなのか。女性にしかわからない感覚や感情があるのだろうか。

「子どもはいつかほしい。でも、人生と引き換えは嫌だ。産んでも愛せないかもしれない」というセリフがアンヌの本心だろうか。

文学への情熱は、最近読んだ名倉友里さんの「夕暮れに夜明けの歌を」に描かれた強靭な孤独(文学を通じた魂の紐帯)を想起させる。

画角が通常より狭く設定されているのを妙に思っていたが、解説によるとアンヌの視点から描くことを徹底するために選ばれたものだという。
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