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ベルファストのhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

「ベルファスト。ここが私たちの家。芝生の庭はないけれど、大通りはある」

1969年。北アイランドの首都、ベルファスト。
9才のバディは、両親、兄との4人暮らしで、近所には祖父母も暮らしている。
家族仲がよく、幸せな家庭環境で育っている。
家は通りに面したアパート。住宅と商店が立ち並ぶ歴史ある通りだが、プロテスタントとカトリックが入り交じり、緊張感のある危険な地域でもある。

監督・脚本・製作は、シェイクスピア俳優のケネス・ブラナー。
最近では、2022年度版の『ナイル殺人事件』の監督をし、ポアロ役で主演している。
本作は、彼の故郷を描いた半自伝的な映画です。

【主な登場人物】
[バディ]
主人公。9才。吸収力が高く、教えられたことはできるようになる子。優等生。その分、自我に乏しく、流されやすい。協調性が高く、断るのが苦手。優しい。
ドラマや映画が好きで、演劇の世界にのめり込んでいる。

[マー]
ママ。普段は優しいが、怒ると怖い。
借金や紛争など、悩みの種が多く、ストレスが溜まっている。
当時の流行に乗って、ミニスカートを履いている時が多い。

[パー]
パパ。大工。イギリスで働いているので家にあまりいない。
平和主義者で争いに興味が無い。
家族を連れてオーストラリアに移住する計画を想像するのが好き。

[ポップ]
祖父。優しい。哲学が好きで、よく引用している。
若い頃に炭鉱夫をやっていた影響で、肺を患っている。
数学を教えてくれる。

[グラニー]
祖母。優しい。つっこみ役。編み物が得意。

[モイラ]
年上の従妹。ツインテール。
面倒を見てくれるが、不良と交流があり、危険な存在。
ちょっと怖くて、逆らえない。

[ウィル]兄。そばにいる。無口。忙しい。
[キャサリン]同級生。バディと両想い。

[ビリー・クラントン]
髭の人。プロテスタントの過激派に属している。
パーを仲間にしようと、いつも勧誘してくる。

【感想】
映画間違えた? 色鮮やかで衝撃的。明るくて暖かな世界。航空映像が綺麗。

暴徒怖すぎ。紛争辛い。もう帰りたい。

[映画で描かれる北アイルランド問題]
・アイランド北部は、イギリスから移住した人が多い。
・北アイルランドは、島の北東部に位置している。首都がベルファスト。1920年代に、アイルランドが独立した際に、イギリスに残った地域を指している。
・イギリスはプロテスタントが中心。アイルランドはカトリックが中心。
・バディの家族は、プロテスタント。(芝居が上手なバディ・プロと覚えればいい)
・1969年の8月に暴動が勃発。プロテスタントの支持者グループが、バディが暮らす家の通りにある、カトリックの家を攻撃した。
・紛争の原因は、「宗教」の違いと、「連合と独立のどちらを望むのか?」の違い。
・町の治安を維持しているのはイギリス軍。

暴動対策で町にバリケードが張り巡らされてゆく。

[映画の特徴]
・9才の少年を主人公に、幼少期の思い出が詰め込まれた作品。
・暴徒が出てくるのは、冒頭とクライマックスのみ。緊張状態ではあるものの、9才の日常が描かれていて、楽しい映画になっている。
・マーへの負担が大きいので、苛立っている場面が多い。
・兄にあまり相手をしてもらえなかったのか、会話が少ない。

[映画がつくられた意味を考察]
自伝的ものを作る際に最初にやるのが、当時の思い出をノートに書きだす作業なのだが。
脚本に採用された内容のほとんどがポジティブなもので構成されている。
映画だと『恐竜100万年』や『チキ・チキ・バン・バン』
玩具だとミニカーやサンダバード。
家族と公園で遊んだ記憶や、病院帰りに祖母と芝居を観に行った思い出など。
当時好きだった人、テレビ、芝居、映画。楽しかった家族との思い出が連なっている。

何より大きいのが、祖父母の存在。彼らがバディの面倒をよくみてくれて、幸福な時間が過ぎてゆく。尺も長く、台詞も多く感じられた。

紛争がはじまった年を描いた歴史的な価値を持つ一方で、はたからみれば辛かった記憶のように思える時期こそが、監督が人生を振り返った時、実は「この上なく満ち足りていたのでは?」と想像させる内容になっている。
二度と味わえない、かけがえのない時間を、映画にしておきたかったのではないだろうか。

エンディング曲 And The Healing Has Begun – Van Morrison♪
そして、私たちはまた大通りを歩きだす。

ベルファストで暮らす人、出て行った人、そして亡くなった人たちのために。

【映画のその後】
北アイルランドでは争いが絶えず、この後、30年にわたって暴力が蔓延することになる。
1998年に”聖金曜日協定”に基づいて和平合意が行われ、紛争が終結するまで。

【音楽】
音楽は、ベルファスト出身のヴァン・モリソンが担当している。
1993年にロックの殿堂入り。1996年に大英帝国勲章OBEを受章している国民的スター。
劇中では、彼が歌った8曲の旧作と、映画のために書き下ろした新曲『Down To Joy』(オープニング)が流れてくる。
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