Jun潤

ベルファストのJun潤のレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.5
2022.03.30

第94回アカデミー賞案件。
作品賞含む7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞。
ケネス・プラナー監督自身の半自伝的な作品。

イギリス、北アイルランドの街・ベルファスト。
そこで元気に成長する少年・バディ。
彼の平穏な日常は、突然終わりを迎える。
地鳴りのような人の群れ、その正体はベルファストに暮らすカトリック教徒を排除しようとするプロテスタント暴徒だった。
日常は常に危険と隣り合わせになり、バディ家はベルファストからの移住を決意するが、家族内でも賛否が分かれ、選択を迫られる。

これはなかなか…、また難しい作品に出会ってしまいました。
全編モノクロ作品というと、個人的には『Mank/マンク』を思い出しますね。

今作の特徴はやはりなんといっても子供の目線から見た世界、という点でしょう。
子供らしい活発で大きく成長する時期に直面した、理不尽に日常を奪われる現実。
モノクロ画面も子供の頃の思い出として不鮮明だけれど確かに心の中に残っているということが伝わってきました。

印象に残ったのは、序盤の色彩のついた美しい風景からモノクロの街の風景への転換と、偶然にも暴動に巻き込まれてしまったバディを厳しく叱りつける母親の姿。
カラーからモノクロへの転換については美しすぎて言葉を失いましたが、ところどころで色彩がつくというのも、陰影の濃淡だけではないモノクロ画面への奥行きの出し方という新しい演出を見たような気分です。

母親の姿についても、序盤で夕飯ができたことを子供伝いに伝える場面を振り返ると、子供の成長期間において叱る場面ではきちんと叱る親の理想的な姿が描かれていた印象です。
それにしてもあんな凄惨な暴動の結果一番環境に良さそうな洗剤を持ったまま母親に叱られるというのが、微笑ましくもありシュールな場面で強烈な印象を残しました。

子供は何をもって成長するのか。
自分の力か、親の愛か、周囲の愛情か、それとも理不尽な世界か。
いいものだけを吸収して成長してほしいけれど、悪いものを吸収してしまったとしても、敵と味方という画一的な見方ではなく、多角的な視点を持った大人に成長して欲しいものです。

さて、『ニュー・シネマ・パラダイス』よろしく子供時代を回顧する物語につきものなのがノスタルジー。
今作では子供時代のまま終わりを迎えてしまいましたが、バディ少年がこの後どのような人生を送ったのか、それはケネス・プラナーの出演、監督作品を見ることで、彼の幼少期の経験がどのように作品に反映されているのか、それを見る人それぞれの目で発見することにあるのではないでしょうか。
また、人それぞれにある故郷の思い出。
映画にしろ仕事にしろ家族にしろ、自分が歩んできた人生の原点には何があったのか、何が心に残っているのか、そんな自分なりの原風景を求めて、自分だけのノスタルジーに浸りたくなる作品でした。
Jun潤

Jun潤