かわまめ

ベルファストのかわまめのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.5
灰色の街ベルファスト。
血の日曜日よりわずか三年前。

恥ずかしながら北アイルランド紛争については詳しくを知らず、数年前小説で一端に触れて少し調べた程度である。ケネスブラナーがアイルランド出身であることもこの映画で初めて知った。

少年の目を通して語られるベルファストの輪郭は、おおむね晴天時折暗雲。
その暗雲も見る私たちが察知せねばわからない。カトリックとプロテスタントをどうにか見分けようと頭を捻る少女の手元で作られるパチンコ。少年はそのパチンコで弾き出されるものがどこに向かっていくかを危惧しない。
雑貨店への襲撃に無理矢理参加させられた末に「環境に配慮した」洗剤を盗んでしまうその間抜けさ。
おもちゃの盾と剣を振り回し、マイティソーを読み、牧師の「善なる道と悪なる道」の話を何度も噛み締める少年は、はっきりとそこに区別があると信じている。
そういう幼い自分を俯瞰する作品である。

そこにあった差別を十分に描いていないという批判は妥当と思う。だが年端もいかない少年にとっての故郷ベルファストがどのような場所であったかを語る自由だってある(もちろんそれが弾圧する側の視点だったとしても)。カトリックとプロテスタントが軒を並べ、ともに歌を歌い、食事を共にし、学舎で机を並べる、そういう街だ。別れの際には花と本を送り合う、そういう友情があった街だ。
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