Jun潤

チェルノブイリ1986のJun潤のレビュー・感想・評価

チェルノブイリ1986(2020年製作の映画)
3.2
2022.05.11

予告を見て気になった案件。
今のような時流にあってもこんな作品を公開されることに、映画という文化が持つ力強さを感じますね。

若き消防士のアレクセイは、10年ぶりに元恋人のオリガと再会する。
オリガのことを忘れられないアレクセイは、オリガとの逢瀬を享受するが、オリガはなかなか自分を受け入れてくれない。
それは、オリガが現在10歳になる息子と二人暮らしをしているためだった。
オリガと息子のため、生きる場所を変えて共に生きていく決意をするアレクセイ。
しかし、人による災害、歴史の奔流は彼らを逃さなかった。
チェルノブイリ原子力発電所事故が発生、未曾有の災害が人々を襲い、息子もまた、事故当時に建物の側にいたため被曝してしまう。
そんな息子を救うためアレクセイは、自殺行為に等しい圧力水プールの手動排水任務に参加することとなる。

うーん、これはこれは。
悪くはなかった…と思うのですが期待していた作りではありませんでした。
ロシア映画というものに全く触れてこなかったので、今作の立ち位置はよくわかっていませんが、予告的に実際に事故対応に尽力した人々を描くドキュメンタリー風のパニック・アクションだと思っていました。
ところが蓋を開けると人間ドラマが主体。
肉まんだと思ったらあんまんでした的な気持ち、うん、どっちもおいしい。

物語的には序盤のアレクセイの行動がストーカースレスレだし、オリガの表情的に快くは思っていないだろうなと感じ取れるし、事故を題材にしている割に全く原発映らないなと瞼が重くなってきた頃にドカンと大爆発。
流石にビビりました。笑
このシーンのためにドラマをゆったり描いていたのかと思うと構成が粋ですね。

自ら死にに行くような任務に挑もうとするアレクセイも、単なる職業倫理ではなく、序盤に描かれたドラマ部分を回収して、絶対的なヒーローではない、あくまで個人のために戦う人間くさいヒーローに仕上がっていました。

終盤に描かれた手動排水の場面も、当時の装備をみるとなかなか心細いものの、如何せんそんなに熱せられている様が伝わってこない、セリフだけで状況説明しているような印象。
しかし演者の演技としては、丸型のモノアイゴーグル装着という表情演技が制限されている中で、十分に任務の辛さ、それでも愛する人を救いたいという力強さ、事態の切迫さが伝わってきました。

排水は成功し、最悪の事態はとりあえず避けられたわけですが、それでも任務後のアレクセイの姿はあまりに凄惨で、多くの人を救うためとはいえ人一人の命を犠牲にしていいのかと疑問符が浮かびました。
エンドロール前にも英雄たちに捧ぐという文言がありましたが、果たして英雄になりたくてなったのか、人々を救う英雄になるよりも1秒でも長く生きたいと願っていた人もいたのではないかと思うと胸が痛みます。
改めて、今自分が生きている場所、立っている世界の礎に数々の偉業と犠牲があったことは忘れてはいけないと感じました。

そしてロシア、原発、隔離対策と、今の時流にリンクした描写の数々。
大局的、政治的観点から何が正しいのか、議論し続けて良いことの維持と悪いことの変革は繰り返していくものだとは思いますが、あくまで一人一人にそれぞれの命と人生があることは忘れてはいけない。
そんな自分と周囲に重くのしかかる陰鬱な時流の中で、人と人とのつながり、愛情などの何にも負けない感情は確かに存在すると信じたくなる一作。
Jun潤

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