Jun潤

帰らない日曜日のJun潤のレビュー・感想・評価

帰らない日曜日(2021年製作の映画)
3.3
2022.06.01

予告を見て気になった作品。
最近どうも大人が昔を回顧する物語を見逃すことができない。

2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ絶賛の、2016年グレアム・スウィフトによる『マザリング・サンデー』を映像化。
原題でもある『MOTHERING SUNDAY』とは、日本で言うところの「母の日」で、この場合、主人に仕えるメイドが一年で唯一自由に出来る日を差す。

1924年、イギリス。
資産家のニヴン家に仕えるジェーンは、身寄りがないため、マザリング・サンデーは読書に費やす予定だった。
しかしその日の朝に秘密の関係を持つポールから呼び出しを受け、限られた蜜月の時間を過ごす。
その一日は、ジェーンの人生を大きく変え、文豪となった壮年期になっても彼女の記憶に深く刻み込まれていた。

イギリスの美しい自然を背景に、秘密の関係を続ける禁断の恋と、当時の時代背景に端を発する切ない運命に翻弄される女性を描く。

それはまるで、昔教科書で見たミロのヴィーナスのように、エロティックであるはずなのに目を奪われ、見た者を魅了し、神聖さすらある雰囲気に包まれるような美しさ。

特にやはりジェーンが全裸のままポール宅内を歩き回る様子などは、決してピンク映画のように燃え上がるものではなく、今にも消え入りそうな儚さを感じさせる。

時代のうねりだけでなく、大切な人の存在とその喪失は、当事者の心を深く傷つけ、消えない影を落とす。
しかしジェーンは強き女性、かつての恋人の死に秘められた秘密を隠し続け、小説家として作品を描き続けることで守ってきた。
しわくちゃのおばあちゃんになってもその手が止まることはない。
Jun潤

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