映画漬廃人伊波興一

叫びとささやきの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
2.5
女傑とも肉食とも現せるような三人の女性たちに骨の髄まで搾られれば、この世の女性はすべからく頭のてっぺんから足のつま先まで真っ赤に見えるのかもしれません
イングマル・ベルイマン「叫びとささやき」

中学生の頃、深夜のテレビ放映で観た記憶があるのですが、年増のおば様方のアップばかりだけが妙に印象に残っていただけでした。
観おさめのつもりで鑑賞。
タルコフスキーの遺作「サクリファイス」の撮影監督スヴェン・ニクヴィストが見事に切り取る、木漏れ日が射し込む庭園の開幕場面は紛れもなく美しいのですが、次々と入れ替わる室内オブジェに呼応するように、アップになるハリエット・アンデルセンと、リヴ・ウルマン、イングリッド・チューリンというご存知スウェーデンの三大女傑女優の寝顔に切り替わった瞬間、この映画は赤一色に染めあがります。
それくらいこの映画はとにかく赤い。
壁は赤い。絨毯も赤い。ベッドのブラケットからベビーベッドのいシーツまで赤い。フェードアウトさえ赤い。ゴダールの「中国女」も赤い映画でしたが、ゴダールの赤さに見られるクールな魅力ではなく、ただ極彩色のようにどぎつく赤い。

おそらくベルイマンが一番観客を驚かせようとしたのかもしれない、イングリッド・チューリンが忌み嫌う夫との夜の営みを拒絶するためにガラスの破片で股間を傷つける場面さえ、ここまで最初から画面が赤く染めあがっていれば、何の効果もなくなります。

むしろ驚いたのは臨死間際のハリエット・アンデルセンがベッドで絶叫しながら身をよじってもがく場面。体が宙に浮くのでは?と見まがうほどその様子は「エクソシスト」ばりで笑うしかありません。

現在では「叫びとささやき」を三姉妹がそれぞれの想念をぶつけあう心理劇として観るよりも、偉大な芸術家がかつて恋仲だった三大女優を共演させればどんな化学反応が起きるか、を探る実験映画として観た方がはるかに面白いかもしれません。

この三人が共演でもしなければ、ここまで血のような真紅がほとばしるわけもないのですから