大島育宙

アウシュヴィッツの生還者の大島育宙のレビュー・感想・評価

アウシュヴィッツの生還者(2021年製作の映画)
4.0
収容所の中でのナチス将校によるユダヤ人デスマッチボクシングという最悪な設定がそのまま戦後にボクサーになるスポーツ映画に変化するのだから、実話かどうかを知らずとも劇映画としてかなり面白い。

しかし、ボクシングシーンで私たち観客は母これでスリルを感じてる我々はナチス将校どどう違うんだ?」という居心地の悪さを感じる。違わないのだ。

あらゆるスペクタクルを見る快楽は加害の成分を含んでいる。厳然たる不都合な事実を体験として突きつける、残酷な映画だ。企画としてかなりエグい。面白いから残酷だ。面白くなかったらいいのに。

ユダヤ人捕虜とナチス将校のディベートとか、
戦争遺族の女性との恋愛とやっぱりディベートとか、
戦時のフラッシュバックが人生を阻む苦しみとか、
印象的なシーンがとても多い。

主人公は暴力の記憶と身体を背負いながらも、
過去にも未来にも他者との対話を続ける。

私たちは加害の視線を後ろめたく思いながらも
「暴力」と「言葉」を感じるために
映画を観てしまう。
映画を分かり尽くした作り手たちが怖い。