Jun潤

アウシュヴィッツの生還者のJun潤のレビュー・感想・評価

アウシュヴィッツの生還者(2021年製作の映画)
3.7
2023.08.15

予告を見て気になった作品。
もはや定期と化したホロコーストもの。
ちょうど鑑賞日が終戦記念日となりましたが、自国のことだけでなく海外にも目を向けなくては。

1963年、ニュージャージー州。
砂浜を歩くハリー・ハフトの影に寄り添うのは、過去に愛した女性レアの在りし日の姿。
かつて手を組み歩いていた二人を引き裂いたのは、ナチスのホロコーストによる強制収容。
人道から外れたアウシュヴィッツでの極限状況を生き延びたハリーは、アメリカに渡りボクサーとして活躍していた。
離れ離れになったレアを探すためにチャンピオンに向けてトレーニングと試合を重ねていた。
しかしハリーは、レアに自分の存在を見つけてもらうため、ボクサーとしてではなく「アウシュヴィッツの生還者」として記者の取材を受ける。
時が経ち、ハリーはレアではない女性と共に家族を築いていた。
そしてハリーは、息子が将来宗教の違いで辛い状況に置かれたとしても強く生きれるようにと、厳しく接していく。

シンプルに収容所の現実について言及する作品というよりは、原題と邦題の通り、『生還者』のその後の人生を描いた作品として独自性を放っていました。
離れ離れになった恋人に想いを馳せる男として、収容所で生き抜いた術を使ってその後も生き続けていくボクサーとして、新たに愛した妻と子供達を守る父として、そして過去のトラウマを払拭することができず悪夢にうなされ続ける一人の人間として、様々な姿をハリーは観せてくれました。

しかし一人の男の人生、他にも大勢の人の人生に影響を与えてしまう戦争についても改めて考えさせられます。
今作の場合は戦争そのものというよりは、ホロコーストのように特殊な状況に置かれた人間が見せる残虐性。
戦争無しに人類の歴史を語ることはできず、戦争があって失ったものもあれば、喪失を乗り越えた先にある新たな出会い、元は戦争のために生まれたとしても、現代では人々の生活をより豊かにさせられる技術の発展。
口に出すことをタブーとせずに、人類全体の教訓として常々考えていくことが一番大事だと思いますね、特にこういう伝記物の作品を鑑賞した後には。

かつて深く愛した人との再会、妻にも打ち明けることができないほどに深く刻まれた心の傷、父と息子の間でした一度きりの秘密の話。
今の自分には縁遠い描写ばかりですが、いつかノスタルジーを感じさせてくれるかもしれないと、過去を描いていても未来にも想いを馳せられる作品。
Jun潤

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