ジャクト

雨を告げる漂流団地のジャクトのネタバレレビュー・内容・結末

雨を告げる漂流団地(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

映像、ストーリー、キャラクター、演出。どれも素晴らしかった。物語終盤では思わず号泣。自分用にも長文で感想を残す。

視聴し始めてすぐ、演出の細やかさに良作の予感がした。たとえば、主人公たちが廊下を走るシーン。先生に叱られた瞬間に慌ててスピードを落とすのだが、その序盤の1シーンで「元気で素直な子供たちなんだな」とキャラクター像が分かるようになっている。

また、夏芽が団地の一室の押し入れに隠れているシーンでも、夏芽は主人公たちに見つかった瞬間に驚いて頭をぶつけるのだが、そのリアクションがどこか男の子っぽいため、ボーイッシュな見た目もあって「勝ち気な一面がある子なんだろうか」と想像させる。

しかし、序盤も序盤に夏芽が廃墟となった団地に一人きりでいるシーンが流れるので「勝ち気ながらも寂しさを抱えた子なんだろうか」と複雑な側面があることも窺わせる。この辺の演出が細かくて巧い。キャラクターの作画についても一人ひとりのキャラクター性に合わせた繊細さがあるので、長く説明されなくてもどの子がどのような性格なのか、キャラクターの動きから理解できるようになっている。

ストーリーも良い。大まかにいえば少年少女の成長譚なのだが、漂流団地に閉じこめられて関係性が狭まっている分、変に物語がわき道に逸れることなく、航祐や夏芽の葛藤や互いを思いやる気持ちにスポットライトがしっかりと当てられている。また、消えゆく建物が擬人化されているため、具現化した存在との別れのシーンは観ている方としても感傷的になりやすく、キャラクター同様にノスタルジーな気持ちをより味わうことができる。

途中、ギスギスもあったり、感情を思うがままに吐露するシーンも数多くあるが、それは子供だから。隔絶された環境で精神が不安定になったり、恋敵に対して強く当たりすぎたり、自身の置かれた環境や状況に悩んで自暴自棄になってしまうのも、まだ成長しきっていない子供だからだと思えば不自然には感じない。そんな子供だからこそ、夏芽が安じいとの本当の意味での別離を受け入れたり、航祐と夏芽が思いを確かめあうシーンの感動がより増すのである。

令依菜が遊園地の幻影?と会話をするシーンも令依菜の背景が映し出されていて好きだった。令依菜は今はなき遊園地で遊んでいた際、父親と仲睦まじい様子であったことが遊園地の幻影から告げられる。令依菜が海外の遊園地に行くことをことさらに自慢するのも、それが(おそらくは忙しい)父親との大切な思い出になるからではないか、父親を大切に思っているからではないか…と詳細には語られないものの(また正解とは限らないものの)想像することができるのである。そんな、想像の余地を残す箇所が多く描かれていたのも、この映画の良さなのだと感じた。

切ない過去を大切にしつつ、そこから脱却することで人はより一層成長する。希望を感じさせるラストに至るまで、丁寧に丁寧に作られた作品だった。大人にも子供にもおすすめできる映画です。
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