かすとり体力

モスル~ある SWAT 部隊の戦い~のかすとり体力のレビュー・感想・評価

3.7
『アヴェンジャーズ』のルッソ兄弟プロデュースで注目を集めた戦争映画。

まず、世の中に戦争映画は数あれど、イラクにおけるISISとの戦いを取り扱った映画を観るのは初めて。

この「正義不在の戦い」(正義が存在する戦争があるのか、という議論はあるが・・・)をどう扱うのかに興味があったが、さすがルッソ兄弟、そこは非常に巧みなバランス感覚で捌いている。

まず冒頭衝撃を受けるのが、長引く戦禍により荒廃し尽くしたモスルの街並みの映像。

どう見てもあり得ないくらい広範囲を空撮した映像につき、これどうやってるんだろう、
まじで戦地を空撮したのか?それともCG?と思っていたら、これ全部セットを組んでいるらしい。。。あり得ねぇ~~。

この冒頭映像で映画世界に没入し始めるや否や、いきなりシーンは戦いの最前線に。
「最前線」と言っても、まじで目の前に敵がいる、というレベルの最前線で、ここから怒涛の戦争描写。

細かい状況説明や登場人物の背景等を言葉で説明してくれるわけではないので、ガチでいきなり戦争最前線に投入されたような気分を味わうハメに。

これは最後まで言えることなんだけど、戦争(というか戦い・殺し合い)の描き方が、一切の叙情性を排していてとにかく即物的。つまりリアル。

実際に戦争に参加したことがないから真には分からないんだけれど、「戦争ってまじでこんなんなんだろうな」と信じるに足るだけの説得力に満ちていることは間違いない。

そして冒頭からテンポよく、そして淡々と事は進み、その中で適時適切に小出しにされた情報から、徐々に徐々に分かって来る、周囲の人間の属性やその関係性。

当初はバトルマシーン的に見えていた周囲のメンバーも、当たり前だがバックグラウンドがあり、愛した人や愛してくれる人がいる「普通の人間」なんだということがゆっくり沁み込んでくる、そんなバランス。

そしてその延長線で最後に示される真実。
これまでの緩やかな「みんな普通の人間なんだ」という理解の到達点で示されるもの。完璧。

結局、近代以降の戦争は、個々の人間から人間性を捨象し、それぞれを定量的な「1人力の戦力」として取り扱うことを前提に成立している。

彼が人として誰であるかなんて作戦遂行の上では関係ない。もっと言うと、個々人の兵士から個性や尊厳を抜き捨て「誰がそこにいても勝てる」ようデザインされた作戦が良い作戦なのである。

そしてここにこそ、「なぜ本質的に戦争は良くないのか」という問への本質的な回答が現れる。

人間には尊厳があり、誰もその尊厳を否定することは出来ない。だからこそ、人間の尊厳を否定することを前提としている戦争はダメ。シンプルな理屈だ。

そういう意味で、本作の最後に示されるテーマは非常に効果的に「反戦」を伝えられるものだと思う。

作中前半まではバトルマシーンに見えていた登場人物たちも、結局は、人々との関係性の中で地に足をつけて生きて来た、尊厳のある一人の人間だった。

そしてこの戦争というものは、彼らの尊厳を何の感情もなく、無に帰す。

そういうことが巧みな展開と演出により単なる「理解」を超えて「腹落ち」させられるような、そんな力が本作にはあると思う。

そういう意味で、(刺激が強すぎるので反論はあると思うが)本質的には子どもたちにはこういう作品をこそ観て欲しい気がする。

映画製作への資本投下の仕方の正解。
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