ろく

珈琲時光のろくのレビュー・感想・評価

珈琲時光(2003年製作の映画)
3.2
見事なくらい「何も起きない」映画だ。

観ていて何が起きるのか何が起きるのか、いや何も起きないのか、その繰り返し。ひたすら退屈である。そして退屈を「感じる」映画でもあるんじゃないかなと思ってしまった。

というのも本来カットを切ってもいいはずなのに無駄にカメラを回している。そして主役でない「サブ」の人たちの行動まで逐一、流す。僕はそのまま群馬に、そして東京にただ「ぼやっと」している感じなんだ。

映画とは「ただひたすらに退屈である」と言ったのは蓮實重彦なはずだけど、退屈だけど何をすればいいかという手持ちぶたさはない。そう、映画を観ている時間だけは確実に過ぎていく。いいんだ、何もしなくて。画面を「ただ」観ているだけでいいんじゃないか、そう思う。

ただ不満を少し言う。小津のオマージュとのことだが小津にあってこの映画にないのは「ユーモア」だと僕は思う。小津映画はそこはかとなく可笑しいんだ。大きな声を出して笑うわけではないけどクスクスと笑う感じ。ホウ・シャオエシェンがそこまでではなかったのが残念。

それでも交錯する山手線と京浜東北線。ともに乗っている二人のシーンには少ししびれた。電車は並行に走っているのに二人は交錯しない。でもそれでいいのだと思う。東京は「交錯しない」ことを是とする街だ。

最後、いろいろな列車が入り乱れている東京のショットでこの映画は終わる。御茶ノ水の映像だろう。ここに僕はいた。30年ほど前に。
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