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零への一のレビュー・感想・評価

零へ(2021年製作の映画)
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『ビーナス』までの初期作品から最新作(初長編)に一気に飛んでしまったが、これめちゃくちゃ良かった。「現実と虚構の境目、その境界の危うさというのは、自分のなかにテーマとして強くあります。(略)少し物語的になってきた最近の作品においては、物語を導入することによって、そのような境界の不確かさを描けないかと考えるようになってきました。その核にあるのは、やはり死のイメージですね。」(金子遊 編『フィルムメーカーズ 個人映画のつくり方』)という2009年のインタビューでの伊藤の発言通りである。死のイメージ≒幽霊は『GHOST』『GRIM』あたりで映像効果的にはすでに試されていたわけだが、(とはいえ難解な)物語・劇映画として、不自然なショットの繋ぎ/切り返しでもって、不在の存在及び現実と虚構の境目をつるべ打ちに繰り出してくるその楽しさ。伊藤は本特集のパンフレットで、北野武『ソナチネ』が人物の足元を映さないことで亡霊のような生を表現していることに言及しているが、この亡霊の映画はむしろ地面を強く意識させる。木製バットもショベルも音を立てて地を擦り、歩くごとに杖は地を突き、土は掘り返される。その倒錯もまた境界を揺さぶっているのだ。どうでもいい些末なことだけど映像撮ってる大学生が住む畳部屋の壁に貼ってある勅使河原宏『燃えつきた地図』のポスターと羽仁進『午前中の時間割り』のチラシに目がいく。

2022/8/16
・『アンバランス』
・『甘い生活』
2010年作品。従来のコマ撮りや長時間露光を駆使しつつも、人物と人物(生者か死者かそれともまた別の何かかはわからないが)の関係を物語り、演出し始めている。そして人間の身体の動き・アクション≒舞踏へのアプローチも。柄の長いハンマーは当然地面を引きずっていく。車が頭を轢き潰すペシャッとした音良かった。音響は本作以降、荒木優光が担当している。
・『最後の天使』
2014年作品。ほぼアパートの一室のみで展開する実存ホラーと、暴力のイメージ(というか暴力そのものも含む)が横溢する理解しがたい男女の物語が、漠然と並行する。ここから最新作『零へ』まで7年空いているわけだが、似たようなショットやモチーフも多く、今となっては『零へ』のための習作としか思えない。
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